「鍵泥棒のメソッド」 内田けんじ監督インタビュー
売れない役者、伝説の殺し屋、婚活中の女性編集者……そんな3人の人生が、運命のいたずらで奇妙に絡まり合う映画『鍵泥棒のメソッド』。ラブストーリー、サスペンス、コメディなど、映画の面白さを詰め込んだストーリーは、ジェットコースターみたいにノンストップでハラハラさせてくれる。堺雅人、香川照之、広末涼子の3人のメインキャストの息もぴったりで、日本アカデミー賞ほか様々な映画賞を受賞した本作について、脚本も手掛けた内田けんじ監督に話を訊いた。
北物語の核にあったのが、〈この時代に結婚をどう描くか?〉ということ。
―まず作り込まれた脚本が見事でした。物語を組み立てていくうえで心掛けたことはありますか?
「〈軽さ〉というのは意識していました。脚本を書いている時に〈3.11〉があったので、余計に映画だからできる、わかりやすくて面白いものを作りたいと思ったんです」
―売れない役者の桜井(堺雅人)が、つい出来心で記憶喪失になった殺し屋のコンドウ(香川照之)になりすますところから物語は始まりますが、堺さんと香川さんの演技合戦が圧巻でした。どちらも本当に巧くて。
「もともと仲が良くて信頼し合っている2人なので、現場で見ていて楽しかったですね。2人とも微妙なさじ加減で、いろんな芝居ができる。堺さんは二度目なのでそのあたりはわかっていたんですけど、香川さんは今回初めてで。でも僕のことをすごく信頼して、こっちのイメージを探りながらやってくれました」
―そんな2人に巻き込まれる、広末さんが演じる香苗の天然ぶりも強烈ですね。
「婚活中で男心に敏感だと生々しいキャラクターになってしまうので、広末さんには女性っぽさを消してもらって、感情をあまり出さずに淡々と演じてもらったんです。広末さんだったらそこまで押さえ込んでも魅力的だし、広末さんだからできる不思議な突き抜け方ができると思ったんですよね」
―そんな香苗と、自分が桜井という役者だと思い込んでいるコンドウとのぎこちないラブストーリーが、微笑ましくてコミカルで良い感じでした。
「物語の核にあったのが、〈この時代に結婚をどう描くか?〉ということだったんです。香苗はこれまで努力していろんなことを達成してきた女性ですが、唯一努力してもどうにもならないものが恋だった。世間では、婚活をどこか醒めた目で見ているところがありますが、自分の幸福のために頑張っているのに何でダメだろう?って思うんですよね。そういう、思うようにならない恋の難しさをコミカルに描きたいと思ったんです」
―細かい見どころがいっぱいあって見る度に発見がある作品ですが、最後にDVDで2度目、3度目を見る時に、注目してほしいポイントをいくつか教えてください。
「コンドウが徐々に桜井の服を着こなしていく過程ですね。最初はシャツを(ジーンズに)インしているのが、段々くだけてきて最後はボタンを外している(笑)。あとは役者さんのリアクションの顔。とにかく、みなさんの表情が絶妙なんですよ」
■PROFILE…内田けんじ
1972年生まれ、神奈川県出身。2005年、劇場デビュー作「運命じゃない人」が第58回カンヌ映画祭でフランス作家協会賞、鉄道賞、最優秀ドイツ批評家賞、最優秀ヤング批評家賞を受賞。4年ぶりの新作となる本作は、「第36回日本アカデミー賞」 最優秀脚本賞ほか8冠を獲得。
記事内容:TOWER+ 2013/5/10号より掲載