Stochelo Rosenberg
グラッペリに捧ぐ、現代最高のジプシー・ジャズ
現代最高のジプシー・ジャズ・ギタリスト、ストーケロ・ローゼンバーグ。自己のトリオにヴァイオリン奏者のティム・クリップハウスを迎えてジャンゴ・ラインハルトとステファン・グラッペリに捧げる来日公演を行ない、4本の弦楽器の軽やかなアンサンブルが一足早い春の陽気を日本に届けてくれた。
「グラッペリと初めて会ったのは91年のモントリオールで、彼のコンサートのオープニング・アクトを私のトリオがつとめた。出番が終わり、彼のマネージャーに呼ばれてグラッペリの楽屋に行ったら、彼は『ジプシー・ジャズのギタリストだというから《ヌアージュ》や《マイナー・スウィング》のようなありきたりの曲ばかり演奏するかと思っていたが、君たちはそうじゃない。チック・コリアの作品などモダンな曲をジプシー・ジャズに解釈していて、ミクスチャーのセンスに感銘を受けた』と言ってくれた。それから親しくなり、アムステルダムで初共演した時は天国で演奏しているような気分だったよ。私たちのアルバム『キャラヴァン』にもゲスト参加してもらった。子供の頃からのアイドルと共演できたことは、私のキャリアの中で最大のハイライトだ」
驚異的な早弾きに耳を奪われがちだが、今は亡きグラッペリ御大の心を射止めた現代的なミクスチャー・センスもストーケロの音楽の魅力のツボだ。彼はどんな音楽を聴き、影響を受けてきたのだろうか。
「私が育ったオランダのジプシー・キャンプは外界と隔てられていた。どの家にもジャンゴのレコードがあり、私も最初はジャンゴだけを聴いていたが、7歳の頃に知り合ったハンス・メイランというオランダ人が、ウエス・モンゴメリーやジョージ・ベンソンからアントニオ・カルロス・ジョビンやパコ・デ・ルシアまで、いろんなレコードを聴かせてくれた。ハンスは私のギターの才能を最初に認めてくれた人物でもある。彼を通じて私の世界は広がり、今名前をあげた人たちの音楽から刺激を受けて作曲も始めるようになった。中でもジョビンが作る豊かなメロディは、作曲家としての私にとって最大のインスピレーションの源だ。もちろんジャンゴの音楽をずっと聴き続けているし、今聴いても新たな発見がある」
近年のローゼンバーグ・トリオはグラッペリとジャンゴ、各々の生誕100周年を祝うアルバムを発表してきた。一段落したところで次のステップは?
「トリオの結成から25周年になるので、ティム・クリップハウスをはじめドラド・シュミット、ビレリ・ラグレーンなどの友人たちを迎えてファミリー的な雰囲気のアルバムを作ろうと思っている」