Boz Scaggs
ミスターAOR、シンガーとしてのルーツを求めてメンフィスへ
日本では“ミスターAOR”として絶対的な人気を誇るボズ・スキャッグス。最近ではジャズに挑んだり、ドナルド・フェイゲン、マイケル・マクドナルドらと"The Dukes Of September Rhythm Revue"として来日公演を行ったことも記憶に新しい。そんなボズが自らのルーツであるソウル/ブルーズの名曲に挑んだ『メンフィス』を発表したが、これが素晴らしい。
「プロデューサーのスティーヴ・ジョーダンは2001年に一緒にやるまでよく知らなかったんだ。でも気分は良かったんで僕は彼の作品を追っていた。ジョン・メイヤーと一緒にやった作品でも見事な仕事をしたと思うよ。ジョン・メイヤーはとても才能溢れる人物で実力もあるけど、いろんな意味でジョーダンが彼の力を最大限に発揮させたんだと思う。そんな彼と一緒にやったことは、僕がこれまで味わった音楽体験中、最も楽しいもののひとつとなった。僕たち二人のルーツがベーシックなブルースやR&Bであり、それらの曲をやるためにメンフィスのロイヤル・スタジオでレコーディングすることにしたんだ。このアルバムはそのスタジオが産みだしてきたサウンドとメンフィスへのトリビュートなんだ」
アルバムには《雨のジョージア》や《コリーナ・コリーナ》といったよく知られた曲やスティーリー・ダン、アル・グリーンらのナンバーなどがぎっしりと詰まり、改めてボズの歌の巧さや表現力を、グルーヴィーなサウンドと共に伝えてくれる。
「アル・グリーンの《ソー・グッド・トゥ・ビー・ヒア》はかなりのチャレンジだったね。考えてみると、歌うのが一番難しい曲だったかもしれない。アレンジもアルのと同じにして意識的にコピーしたんだけど、なかなか大変だったが、やってみてなおさらリスペクト出来るようになった。この曲はアルバムの鍵と言えると思うね。僕にとってスペシャルだった曲は《コリーナ、コリーナ》だ。これは長年にわたり大勢の人がやっているが、夜遅くにレコーディングして特別な感情が出てきたんだ。一聴すると単純なコード進行と歌詞のように聞こえるが、実はそこには切なる思い、喪失の思いが込められている。そこがマジックなんだな」
寡黙な大人のシンガーというイメージの強いボズだが、よほど今回の仕上がりが満足だったのだろう。言葉があふれ出して止まらないインタヴューとなったのだが、彼の気持ちはこんな言葉にも表れていた。
「このアルバムでは、シンガーであることに重点が置かれている。シンガーの自分の声を使っていろんな曲を試してみたかったんだけれど、その仕上がりにはとても満足しているよ」