インタビュー

TOKU

いろんなことをしたいという気持ちが
ドキドキ感をもっと大きくしてくれる

新作のキーワードになっている“DREAM”について聞こうとしたら、TOKUはいきなりポールシフトの話を始めた。ポールシフトとは、「天体の自転に伴って極(自転軸や磁極など)が現在の位置から移動する現象」を指し、地震の原因とする説もある。「話、飛んでますね」と彼は笑ったけれど、実はそれほど飛んでいるわけでもない。前作『TOKU sings & plays STEVIE WONDER』がリリースされたのは2011年4月。彼のデビュー10周年を飾るための作品は、リリース直前に起きた3.11東北大震災で悲しみに暮れる日本の絆を強め、エールを贈るという役割も担った。天変地異に興味を抱くのは、彼の率直さの表われとも言える。

今回のアルバムは、「いわゆる“男女の恋愛の歌”じゃなくて、もっと広い意味での“人間愛”の歌を中心に、オリジナルを含めて」選んだ。カヴァー曲に関しては、2010年に彼のウェブサイトで募集したリクエストを参考にしている。しかし、彼は“リクエストを無条件で受け入れない”というスタンスを貫いているミュージシャンだ。

「自分の気持ちに正直になれない歌を歌うことはできないし、いくら『あのアルバムの曲が好きで聴きに来た』と言われても、そのときに僕が本当に歌いたいと思わなければ、歌わないほうがいいと思うんですよ」

歌ってあげれば喜んでもらえる、しかし自分の気持ちに沿わなければ“いい演奏”にはならない、だから歌わない——。700曲以上集まったというファンからの「これを歌ってほしい!」という“DREAM”が、そのままTOKUのアルバムの選曲案としてダイレクトに反映されることは、おそらくこれからもないのだろう。その一方で彼には、ファンがどんなところにいままでの自分にないイメージを求めているか——についての興味はあった。それが今回、「以前だったら絶対に歌おうとは思わなかった曲」を収録するきっかけにもなった。そんな曲の1つが、マイケル・ジャクソンの作詞・作曲で1991年に発表された《ヒール・ザ・ワールド》。制作当時のマイケルは30代前半。

「彼は本気でこの歌詞のようになればいいと思って歌っていた。30代前半のころの僕には、そのことがわかっていなかったと思うんですよ。ようやくいまになって、この歌詞を歌えるという気持ちになることができたんだと思います」

アルバム制作はこのように、TOKUがどれだけその歌を歌いたくなっているのかという、唯一にして最強の選択基準によって進められていった。曲が決まると、「さあこの曲たちをどういうふうに仕立てていこうか」という、メンバーの選定へ移る。

「今回のアルバムでもそうなんですが、たいてい僕はいつも、いろんなことをやりたいので、それにはいろんなことができる人に参加してもらわなければならないんです。なかでもいちばん重要なのはドラマー。サウンドの要になりますからね」

前2作でもアレンジとプロデュースを担当しているピアニストの宮本貴奈にそのことを相談すると、「やっぱりマーロン・パットンがいい!」という意見で一致した。彼もまた、前2作でTOKUのサウンドの要として活躍したアトランタのドラマーだ。

そして、TOKUの“いろんなことをやりたい”を象徴する意味で、コラボレーションの相手となった2人の存在も大きい。

「zeebraとはもう10年以上もちょくちょく共演しているんですけど、なかなかガチンコのコラボというのができなかった。それが、昨年の暮から今年の初めにかけてのライヴで実現できたので、内容的にもアルバムのコンセプトにマッチしているから、形に残そうということで参加してもらいました。

僕のアルバムには2度めの参加となるソルトさん(塩谷哲)は、ホント、歌い手の心にスッと入ってきてくれるスゴい人。同じ気持ちになるということを意識してくれる数少ないミュージシャンの1人で、僕は昔から大好きなんです」

彼と塩谷哲は、パーカッションの大儀見元を加えた3ピース・ユニット“ソルトクゲン”という活動も続けている。NHK「みんなのうた」のための《君へのファンファーレ》ができあがったときに、この曲をいい形に仕上げてくれるのは誰かを考えていたら、塩谷哲の顔が真っ先に浮かんだという。

「ジャズファン以外の人も多く耳にするだろうし、子どもにもわかるようにということも意識するけれど、完全にアーティスティックな部分を削ってしまうのではなくて、ちゃんとそういう部分も残してアレンジをしてくれる——それならソルトさんしかいないだろう、って」

こうして、TOKUのドキドキ感を基準に作られた『DREAM A DREAM』は出来上がった。

「生身の人間が音を出し合って、いい意味でのハプニングを起こすのが、音楽のあるべき姿だと思うんです。今回もそんなドキドキ感を感じながらアルバムを作ることができたので、次はライヴ会場でその曲のドキドキ感を伝えられるようにチャレンジしたいですね」