「横道世之介」 沖田修一監督インタビュー
[ interview ]
主人公って柄じゃない。お人好しで、お調子者で、どこにでもいそうな青年の青春を描いた映画「横道世之介」。吉田修一の人気小説を見事に映画化したのは、「南極料理人」や「キツツキと雨」など、独特のユーモアを滲ませた絶妙な語り口で人気の沖田修一監督だ。舞台となった87年の東京の雰囲気を再現しながら、誰もが体験する大学生活のあれこれを織りまぜて、時代を越えた青春映画の新しい名作が生まれた。
なんてこともない時期の話を、長い時間かけて見るっていうのも皮肉で面白いんじゃないかって思いますね
―原作のどんなところに惹かれたんですか?
「一人の若者が大学進学で上京して一人暮らしを始める。そんな誰にでも思い当たる物語だったこと。そして、出てくるキャラクターがみんな魅力的で、それを人が演じたらどうなるんだろう?っていうワクワク感もありましたね」
―横道世之介役には高良健吾さんが、すぐに思い浮かんだそうですね。
「高良君とやるのは4作目なんですけど、高良君の素の感じが世之介に近いところがあるなって思ったんです。主役をお願いするのは今回が初めてなんですけど、いつも等身大の若者を演じてもらっていたので、今回も気負わずにやってもらえるんじゃないかと」
―その一方で、吉高由里子さんが演じた世之介の恋人、与謝野祥子は、金持ちのお嬢様で個性的なキャラクターでしたね。
「原作を読んだ時、祥子が面白くて成立していると思ったんですよ。だから難しい役だなと。吉高さんはずっとやってみたかった女優さんで、〈何言ってるんだ、こいつ〉ということを言っても、好感を持ってみられるようなところがある。そこが祥子役にはぴったりだと思いました」
―映画では世之介の大学生活と、それから数年後、大人になった仲間達の姿が同時に描かれて行きます。そして、映画の真ん中あたりで世之介にある出来事が起こることで、何でもない青春の日々がとても大切で愛おしく思えてくる。その構成が素晴らしかったです。
「大学での一年を通して、普通の青年が何者かになっていく話を撮りたかったんです。スタートラインにつくまでの話というか。大学の一年を描くことで、世之介の一生が透けてみえるようにしたかったんですよね。だから感動のクライマックスがあるより、世之介がヘラヘラ笑っている姿に何か感じ取ってもらえるほうが良いな、と思っていました」
―思えば大学時代って、長いような短いような不思議な時間のなかで生きていた気がします。この映画では2時間40分という時間にゆったり浸ることで、あの頃の空気感が甦ってきました。誰もが青春時代を振り返れるような作品ですね。
「19歳の頃って、何もしていないのにあっという間に終わって、友達と酒を呑んでいたことくらいしか憶えてない(笑)。バイト先でイヤなことがあったり、女の子と付き合いそうになる一歩手前の感じとか、そういうなんてこともない時期の話を、長い時間かけて見るっていうのも皮肉で面白いんじゃないかって思いますね」
■Profile…沖田修一
1977年、埼玉県出身。日本大学芸術学部映画学科卒業。、監督・脚本を手掛けた「南極料理人」(09年)で商業映画デビュー。同作で第29回藤本賞新人賞、新藤兼人賞金賞、日本シアタースタッフ映画祭監督賞を受賞。さらに『キツツキと雨』(12年)で東京国際映画祭審査員特別賞、ドバイ国際映画祭で最優秀男優賞、最優秀脚本賞、最優秀編集賞を受賞。記事内容:2013/8/10号より掲載。