インタビュー

Nancy Vieira

セザリアの魂を受け継ぐ、カボヴェルデの温もりの歌声

すべらかな褐色の肌、親しげで大きな瞳。落ち着いたアルトの声が、セネガル沖に浮かぶ島嶼国特有のゆったり気質を伝える。リスボン在住、カボヴェルデの歌姫ナンシー・ヴィエイラが、4枚目の最新作を携え、嬉しいプロモーション来日。

「大部分がミンデーロ録音で、参加した全員が土地のミュージシャン。私にとって初のカボヴェルデ録音だから、まさに特別なアルバムね」

小さな島国の音楽を広く世に知らしめたのは、もちろんセザリア・エヴォラ。若い頃ミンデーロの酒場を歌い歩いた、グラミー受賞歴を誇る裸足のディーバだ。本作の録音タイミングに合わせ、ナンシーはセザリアの自宅を訪ねたという。

「2011年6月、彼女の家で会ったのが最後になってしまった。その12月に亡くなったから。長いツアーを終えると、彼女はいつもミンデーロへ戻り、車で街を散歩していたの。車を止めては街の人と語らっていたわ。私が初めて彼女に会って挨拶したのは、ラジーニャ海岸だったっけな」

家を訪れた際の美談がある。セザリアが、いきなりナンシーの父親の近況について尋ねたのだ。

「お父さんは元気? エルクラーノが恋しいわ。偉大な人で尊敬してる……なんて言われて、もうびっくり。知り合いなのは、私も聞いていた。でも、かくも深い友情関係にあるとは……だって世の中には、俺はセザリアの友達と名乗る人がごまんといるんだもの(笑)。感激のあまり、家を辞去してすぐ父へ電話をかけ、彼女が酒場で歌っていた当時、父が伴奏を務めた事実を、初めて知ったわ。父の謙虚さを意識させられたので、ごめんね、父さんを誇りに思うわ……って伝えたの」

そんな彼女は、セザリアを「憂愁の大使」と呼ぶ。一方、往時の共演者でギターとヴァイオリンを弾く父親は、大西洋航路の船長、祖国独立に尽力した戦士、大使や大臣も歴任した英雄なのだ。

「カボヴェルデ固有の音楽は、いわば〈異種混交による歓喜の果実〉。物悲しく、郷愁の念を詩に託す〈モルナ〉の語には、温和で平穏、ゆっくりというニュアンスもある。かたや、祭りの陽気さを象徴するのが〈コラデイラ〉。そう、身体をくっつける踊りが語源ね。メランコリックでソフトな歌、闊達なリズム……どちらも私たちの気質なのよ。アルバムでは、そのほかフナナー、ヴァルサ(ワルツ)、マズルカ、サンバ、ボサノヴァも採り上げているわ」

同行ギタリストのヴァイスは、1993年と2度目のセザリア来日公演にも参加していたそうだ。島国に受け継がれる、温かい謙譲の美学……見習うべし!

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年09月02日 11:14

ソース: intoxicate vol.105(2013年8月20日発行号)

interview&text:佐藤由美