インタビュー

井上仁一郎



挨拶代わりの一枚は、スペインの巨匠たちへのオマージュ

井上仁一郎_A

デビュー・アルバムは近代ギターの父、タレガを中心にスペイン近現代の作品で統一。タイトルに込めたのは巨匠たちへの〈オメナヘス(オマージュ)〉だ。

「今弾きたい曲ばかりを集めたらこうなった。曲毎に調弦を変えてあって、ライヴだとあり得ないプログラムなので曲順を考えるのは楽しかったですね」

冒頭の《椿姫幻想曲》はタレガを見出したアルカスの作品。《4つのカタルーニャ民謡》は巨匠セゴビアの愛弟子ゴンサレス(聖母の御子)以外は、同郷出身のタレガの2人の高弟、リュベート(アメリアの遺言)とプジョール(鳥の歌)、孫弟子にあたるデ・ラ・マーサ(盗賊の歌)の編曲で固めた。

「同じスペインでも南はフラメンコ色が強いのに、フランスと国境を接するカタルーニャ地方の音楽はモダンでジャズのフィーリングとも合う。タレガ一門の曲は弾いていて何か共通なものを感じるけれど、編曲者それぞれの個性も色濃く出ているのが面白い。個人的にはリュベートは自分でもかなり派手にギターが弾ける方だったと思う。それに対してプジョールは研究者タイプで少し小難しいところがありますね」

ジプシーの伝説から着想を得たファリャの《恋は魔術師》もプジョールの編曲で。

「この曲もそうですが、今回は自分で細部のアレンジにいくつか変更を加えてレコーディングしたものも多い。弾きやすく変えたのではなく、編曲者がテクニック的に諦めているなと感じた部分を補うつもりで」

プジョールによる《タレガ讃歌》やロドリーゴが敬愛するファリャに捧げた《祈りと踊り》、バルセロナ在住のカルレス・トレパットがブラジルの名ギタリストへの想いをギター曲にした《バーデン・パウエル讃歌》など、オマージュ作品が多いのも本盤ならでは。

「トレパットの作品はカタルーニャの楽譜屋でみつけて、その後本人にもお会いして直にレッスンを受けることができました。ギタリストにしては華奢でとても無口な方なのですが、演奏は凄く饒舌でした」

《蝶の舌》は、チリ生まれのスペイン人映画監督で作曲家としても活躍するアレハンドロ・アメナーバルが手掛けた、ホセ・ルイス・クエルダ監督の同名映画(2001年日本公開)の音楽で、鈴木大介の編曲。

「鈴木さんの演奏で曲を知り、映画も観ました。時代背景のスペイン内線にも元々興味があったので」

ラストを締めくくるのは、フラメンコ・ギターを彷彿とさせる技巧的な奏法と独特のリズムで魅了するセロドニオ・ロメロの《アンダルシア舞曲第1番》。

「キャッチーで聴かせ所満載なのでライヴの締めにもよく演奏します。最後まで楽しんでもらえるかと!」



カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年09月11日 18:00

ソース: intoxicate vol.105(2013年8月20日発行号)

interview&text:東端哲也