インタビュー

宅間善之



宅間善之_A



ふわふわとコロコロの共存。ヴィブラフォンの魅力満載の初リーダー作

僕がバークリーに留学した当時は、マレット4本のゲイリー・バートン・スタイルが主流でした。当時バークリーでミルト・ジャクソン・スタイルのマレット2本だったのは僕とウォーレン・ウルフだけでしたね」と語る宅間善之は日本では数少ないジャズ・ヴィブラフォン奏者だ。ヴィブラフォン全般を学びながら、ミルト・ジャクソンが好きだと言う宅間は、その中でもスウィングジャズからビバップまでのオーソドックスなジャズの腕を磨いた。その一方で、クオシモードの名を一躍広めた『oneself-LIKENESS』でヴィブラフォンを叩き、近年ではジルデコイ・アソシエーションやCRO-MAGANONのオーケストラにも起用される。ストレートアヘッドなジャズからクラブジャズまで幅広く活動する稀有な存在だ。

その宅間の初リーダー作となる本作は、自身のジャズへの志向をそのまま反映したストレートアヘッドなものになっている。中林薫平、長谷川ガクの若手屈指のリズムセクションを起用して、彼らが実にシンプルで、余裕のある豊かな4ビートを聴かせてくれる。「ほぼ一発録音。あくまで全員がシンプルにやることで、ヴィブラフォンを立たせてくれています」と語るように、モダンジャズの基本的なフォーマットに敢えて沿う中で、自らの表現を探る。宅間と絶妙に呼吸を合わせる田中のピアノも実に効果的だ。シンプルな表現に沿ったことで、音色や音の響きそのものへのこだわりをより強く見せる。もともと「1960年代のオールドのヴィブラフォンの“まあるい音”」を使い音色にこだわる宅間は、ここでも「ビバップをやる時のコロコロしたメロディ楽器としての音も好きだけど、ヴィブラフォンの特性でもあるふわふわした心地良さも両方入れたかった」と語り、そのために「録音時の箱の鳴り方も一つの要素。完全アコースティックの演奏だからこその空気の震えも入っている」と録音にも余念が無い。オープニングのヴィブラフォンソロはその音色と響きと録音へのこだわりを形にし、次の曲では転がるヴィブラフォンを存分に鳴らす。また、本作には2曲のカヴァーがある。童謡の《月の砂漠》はフレディ・ハバードのカヴァーのイメージを使い、モーダルなアレンジに薄っすらと情緒を乗せた演奏に宅間の個性が見える。モダン・ジャズ・カルテットの《ミラノ》では、歌モノのようにシンプルできれいなメロディーを持つこの曲を、あえて原曲のアレンジをほぼそのまま使い、浮き出る表現の違いに委ねた。自身の演奏には音色や響きまで徹底的にこだわり、バンドの演奏は信頼する仲間に委ねた。この柔らかな熱さが宅間の、そして本作の魅力になっている。



カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年10月11日 10:00

ソース: intoxicate vol.106(2013年10月10日発行号)

interview&text :柳樂光隆