インタビュー

中木健二



「作曲家や様式ごとに見方を統合できるような“横の線”の活動に憧れます」

中木健二_A

2010年からフランス国立ボルドー・アテキーヌ管の首席チェロ奏者を務める中木健二。東京藝大を経て、パリ国立高等音楽院に首席入学。05年のルトスワフスキ国際や、08年の国際フランス音楽といったコンクールを制した新世代の逸材だ。近年は故郷の愛知を中心に国内公演も増える中、10月に待望のデビュー盤を発表する。収録曲(全9曲)はすべて20世紀のフランス音楽で、その核になっているのがドビュッシーとプーランクだという。

「昨年のドビュッシー生誕150周年と、今年のプーランク没後50年という二つの節目に因んでいます。印象派の絵画のような色彩感だけでなく、陰影と立体感のある深みも大切にしました。僕の10年に渡るフランス生活の集大成のようなアルバムになったと思います」

では、ずばり、収録されている4人の作曲家および各曲の聴きどころは。

「冒頭のドビュッシーのソナタは、僕の最も大切なレパートリーのひとつ。古典派様式の中に多彩な性格と詩的な要素が詰まっているのが魅力です。続く《美しき夕暮れ》は、収録曲の中で最も詩的かつ個性的な作品。ドビュッシーの光と影が絶妙のコントラストを創り出しています。フォーレとデュパルクの作品は、原曲がチェロではない歌曲をあえて中心に選びました。歌詞に秘められたメッセージをフランス語で深く追求し、人間の声域に最も近い音域を持つチェロで演奏することで、その魅力を存分に発揮できたと思います。そして最後のプーランクは、あまり演奏されないソナタと、有名な《愛の小径》の2曲を。どちらも愛らしい曲想が印象的ですが、同時に切ない抒情や祈りを捧げるようなフレーズにも溢れています。彼独特の強烈なコントラストを楽しんでいただけたら嬉しいです」

2年前から、エネルギッシュさと繊細さを備えた名器、1700年製ヨーゼフ・グァルネリ(NPO法人イエローエンジェルから貸与)を使用している中木。「アテキーヌ管の仕事は、管弦楽曲の公演だけでなく、オペラやバレエなどの幅広いレパートリーに触れられるので、とてもよい経験になっています」と語る。その柔軟で瑞々しいスタンスは、今後の活動に向けた抱負にもはっきりと表れている。

「ソロ、室内楽、オケといった“縦割り”ではなく、作曲家や様式ごとに見方を統合できるような“横の線”の活動に憧れます。例えば、J.S.バッハのマタイ受難曲を弾いた前後では無伴奏チェロ組曲の解釈が変わって当然ですし、交響曲を弾くことでベートーヴェンやブラームスのより深い部分に触れられるような気がするのです」



LIVE INFORMATION


『紀尾井クリスマスコンサート2013』
○12/21(土)千16:00開演
共演:ウィーン・グラスハーモニカ・デュオ、井上静香、森岡聡(vn)、伊藤慧(va)
会場:紀尾井ホール
http://www.kioi-hall.or.jp/ 



カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年10月22日 10:00

ソース: intoxicate vol.106(2013年10月10日発行号)

interview&text :渡辺謙太郎(音楽ジャーナリスト)