インタビュー

奇妙礼太郎トラベルスイング楽団 『仁義なき恋愛』



自身の作品/ライヴのみならず、さまざまな場所でその声の魅力を発揮している奇妙礼太郎。バンドでの新作もゴキゲンでロマンティックな音とヴォーカルの魔力に、問答無用に惹き付けられる!



奇妙礼太郎トラベルスイング楽団_A



そのときできることをやろう

TVCMでその歌声をよく耳にするようになったと思ったら、さらには〈24時間テレビ〉のナレーションまで担当していたりと、いよいよ本格的なブレイクの気配が漂いはじめた奇妙礼太郎。今年の春にはライヴ会場/店舗限定でリリースされたソロ・アルバム『HOLE IN ONE』を引っ提げて、初の全国弾き語りツアーを開催。その艶やかな歌声にますます磨きをかけた。

「弾き語りはできるなら毎日でもしたいと思ってるぐらいです。バンドではメンバーとやり取りしながら1〜2時間のステージが進んでいくけど、こっちは完全に一人なんで、一人でその時間をどうするか……その違いが楽しいですね。あとは同じ曲を何回も歌うんで、自分のことを掘り下げていく感じもあるんです。でもやっぱり飽きてくるんで、曲をどんどん変化させていって、〈どこまで変えれんのかな?〉みたいなのを試すのも楽しいです」。

奇妙礼太郎トラベルスイング楽団としての実質的な初作だった昨年の『桜富士山』に続くニュー・アルバム『仁義なき恋愛』。彼らはあくまでライヴを活動の軸に置くバンドゆえ、新作についても「作り方とかはこれまでと特に変わってません」と素っ気ない。とはいえ、不定形のビッグバンド編成によるスウィング・ジャズを基調としつつも、ダンサブルなロックンロール・チューン“どばどばどかん”、奇妙が熱っぽく歌い上げるスロウ・バラード“僕がわるいんだ”をはじめ、彼らの真骨頂と呼べそうなタイプの曲はもちろん、マンボの要素を採り入れた“カトリーヌ”、ワルツ調の“恋がこんなにつらいとは”など新味なナンバーも収められ、これまで以上に楽曲の幅は広がっている。バンドの確かな成長が感じられる作品なのだ。

「どういう曲か聴いてすぐわかるようなのがいいなと思って、例えば、キーボードにプリセットでいろんなジャンルの音が入ってるじゃないですか? ワルツのボタンを押したらそれが鳴るっていう、そういう感じですね。そういういろんなジャンルの音楽をうろ覚えでやってる……結構勘違いしたままやってるメンバーも多いと思うけど(笑)。前までだったら、〈イメージと違うなあ〉と思うこともあったんですが、そうなるとなかなか進まないんで、いまはその人のベストを尽くしてくれてれば、そのへんは気にしないというか、そのときできることをやろうっていう感じですね」。



曲作りは正直、全然上手ではない

歌詞に関しては「新しいものを作るっていう気持ちじゃなくて、ありそうなものを自分で作るって感じで、結構キツイなって思いながら書いてます(笑)」とのこと。「すでにある曲を歌うのが好きなんです」というのは、これまで彼が何度も口にしてきたセリフだ。

「人が書いた曲とか歌詞のほうが好きなんで、(自分たちの楽曲を)書いてくれたらいいなって思うんですけど、それだと商業的に怪しくなるんで(笑)。実際、自分のなかの80%は歌うだけのほうが集中できると思ってて、残りの20%は自分で作ったりするのも好きっていう気持ち。他人の曲を歌うほうが自由な気はするんですよね」。

確かに、DJ Fumiyaやワンダフルボーイズ、杉瀬陽子、THE BED ROOM TAPEなど、最近客演したさまざまなタイプの作品で聴くことのできる歌声が、トラベルスイング楽団のときとはまた違った魅力を放っていることは間違いない。

「他の人の曲で歌うっていうのは、車がビューッて来て、それに乗るだけなんですけど、自分で車を作るの正直、全然上手やとは思ってないんですね。まあ自分の曲もライヴを通じて変えていって、4年越しぐらいで良くなってきたりとかするんですけど(笑)」。

〈ビートルズで全部出尽くした〉というのはよく言われる話だが、確かに、これまで積み上げられてきた膨大な音楽遺産があり、なおかつそれをいつでも気軽に聴くことができる時代であれば、自分が新しいものを生み出す意味を見い出すのは、音楽愛が強ければ強いほど難しいことなのかもしれない。とはいえ、バンドとソロという2つのアウトプットを持ち、それぞれカヴァー曲も織り交ぜてライヴ活動を続け、徐々に知名度を高めつつある彼の現状は、決して悪いものではなく、むしろかなり好調だと言っていいだろう。そして、いずれは彼の愛するリトル・リチャードやサム・クック、坂本九や美空ひばり、浜田省吾らの名曲をカヴァーしたアルバムなんていうのも、ぜひ聴いてみたいところだ。もちろん、そこには4年越しで熟成された、トラベルスイング楽団の曲のセルフ・カヴァーも入れて。さて、実際本人は今後の展望をどう考えているのだろうか?

「カヴァー・アルバムはいつか出したいと思いますけど、自分で音楽をするうえでは、どういうアーティストになりたいとか、誰々みたいになりたいっていうのはないですね。ステージに出て行って、こう思われたいっていう姿をそのままやってもつまんないし、そういうのは観てる側もわかるんで、〈ふざけんな〉って僕は思う。まあ、自分が持ってる身体能力でどこまでできるか、みたいな自分への興味はあります。あと売れるとかって話やったら、武道館でライヴやって、〈いいとも〉出て、〈紅白〉出て、58歳ぐらいでアポロ・シアターのステージに立って、死ぬっていう(笑)。八代亜紀さんがジャズ・アルバムを出してて、NYでライヴをしてたんですよ。あのライヴ盤がスゲーなと思って……買お(笑)」。

他の誰かの影を追うのではなく、あくまで奇妙礼太郎として切り拓いてきたここまでの道のり。〈紅白に出る〉なんて発言も、十分に現実味を帯びたものではないかと思うのだ。 



▼関連盤を紹介。
左から、奇妙礼太郎の2011年作『GOLDEN TIME』、奇妙礼太郎トラベルスイング楽団の2012年のライヴ盤『LIVE GOLDEN TIME』(共にGrand Gallery)、八代亜紀の2012年作『夜のアルバム』、同2013年のライヴ盤『夢の夜 八代亜紀 ライヴ・イン・ニューヨーク』(共にユニバーサル)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年11月20日 14:55

更新: 2013年11月20日 14:55

ソース: bounce 360号(2013年10月25日発行)

インタヴュー・文/金子厚武