インタビュー

三木俊雄



17年熟成の“モヤ”を聴け。日本のビッグバンドジャズにこの男あり!

三木俊雄_A
©Masanori Doi

「単音楽器を選んだことへのジレンマと、複数音によって成立する“響き”への憧れ」が、その隠れた才能に光を当てる最後のひと押しとなった。もちろん彼がソロイストとしても、セクションの因子としても、優秀なテナーマンであることを前提としての話。三木俊雄が米留学から帰国したのがちょうど日本の若手プレイヤーたちによる“ジャズ維新”の勃興前で、シーンはまさに新しい世を謳歌しようと蠢きだしていた。

「きっかけはプロジェクトへソロイストとして参加するよう誘われたことでしたが、いたたまれずそこで手を伸ばした編曲が、のちの本職となるわけです。少しして同企画者から『そろそろビッグバンド界からも既存にない音を探る開拓者が出てきていいよね』と、暗にレコーディングを前提としたバンド立ち上げを囁かれるわけです」。和声を学ぶ者なら、最大6声あれば考えうるハーモニーが実現されるのを知っている。ならばユニゾン声も含め7本の管楽器を使った10ピース・バンドが最も効率よく、あらゆる“響き”を取得できるユニットとなる……全員がソロをとれる優秀にして無名な奏者でなければならなかったが、こうしてフロントページ・オーケストラは17年前に誕生した。

歌手のDOUBLEやmeg、ギタリストの押尾コータローというジャンル外アーティストの伴奏を担い評判を集めた。母体は残し、フルサイズに編成を膨らませたのが伊藤君子の伴奏オーケストラであり、つまりバークリー音大の先輩・小曽根真が率いるのちのNo Name Horsesである。そうした背景を含みながら、9年前の自主盤1枚しか制作されていないことは(結成前の密約は反故となった)どうにも納得がいかない。「ピアノは平均律で調音されますが、管楽器は互いの音を聴いて最も“響く”場所を探って発音します。上手くいった時は鳴っていない音まで響きだし、やがて“モヤ”のようなものが立ちこめて記憶を揺さぶりはじめる。昔を思い出させたり色や味や匂いを感じさせ、音に魔法がかかった時はそんなヴァイブレーションが立ちこめてきます。それを一度に1音しか出せない管楽器奏者が集まってトライするのですが、9年前に手応えを得て以来、ここに来てついに納得できるものとなりました。若く優秀なドラマーも入って、僕が望んでいたサウンドがやっと完成域に達したわけ」。

9年ぶりの新譜『ストップ&ゴー』には、明澄で高度なサウンド・テクスチャーがこれでもかと盛り込まれる。メンバーにはタフな譜面が配られたに違いないが、最近は以前ほど苦情も出なくなった。これもアレンジ上のマジックだと、出来たばかりのジャケット・デザインに見入りつつ満足げに頷くリーダーである。



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カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年10月23日 10:00

ソース: intoxicate vol.106(2013年10月10日発行号)

interview&text:長門竜也