Gregory Porter
写真提供:ブルックリン・パーラー新宿
心の奥底からの叫びを優しく穏やかに伝える声の伝道師
2枚のアルバムを出し、僅か3年ほどでトップ・ジャズ・シンガーの仲間入りを果たしたグレゴリー・ポーター。新作『リキッド・スピリット』は、かねてよりポーターの情熱的で温かい歌声に惚れていたドン・ウォズ新社長のブルーノートからのリリースとなった。
「ドン・ウォズには、『とにかく君はそのままでいろ』と言われたよ。これまでと変わった点をあえて挙げるなら、3作目なので自信を持てたことと、ジャズっぽさを過剰にアピールしなくてもよくなったことかな」
新作のスタッフもモテマからの前2作と基本的に同じで、日本人サックス奏者の佐藤洋祐を含め、現在の活動拠点であるNYの音楽仲間がバックを支えている。ほろ苦いラヴ・ソングやプロテスト・ソングをゴスペルやソウルの感覚を滲ませながら歌うポーターには、よく言われるダニー・ハサウェイやビル・ウィザースのほか、オスカー・ブラウンJr.やギル・スコット=ヘロン、ビリー・ポールなどとの共通点も見出せるが、特に強く感じるのはブルースのフィーリングだ。
「その譬え、全部もらった!(笑)。《Musical Genocide》の歌詞に出てくる〈ソウルマン〉というのは、まさにそんな、70年代にいい音楽を作って気分を高揚させてくれた人たちのことなんだ。僕も年配の人からはビリー・ポールやルー・ロウルズに似てると言われるしね。それを〈ただのソウル/R&Bシンガー〉だと皮肉る人もいるけど、ソウルとジャズは親戚みたいな音楽だからネガティヴには捉えていない。ブルースについては君の言う通り。悲しみだけじゃなく明るい希望も込めて歌っている」
曲は移動中に書くことが多いそうで、「《Wolfcry》は、フランスで列車に乗っていて羊の群れの前を通った時にストーリーが思い浮かんだ」とも。
また今作では、ラムゼイ・ルイス・トリオで有名な《The In Crowd》やアビー・リンカーンが歌っていたマックス・ローチの《Lonesome Lover》、スタンダードの《I Fall In Love Too Easily》といった曲も歌った。
「政治的なテーマを取り上げながら優雅な音楽にしていくアビー・リンカーンのスタイルには凄く影響を受けているんだ。今回、(キング牧師に捧げた)《When Love Was King》を書いた時も彼女の手法を参考にした。《I Fall In Love〜》は、ある意味僕自身のこと。僕は人にも場所にもすぐ恋に落ちてしまうんだ」
デビュー作の『ウォーター』よろしく水を連想させる『リキッド・スピリット』というタイトルは、牧師をしていた彼の母が「水は行き着く必要があるところに流れていく」と言っていたこととも関係があるそう。そして今、ポーター自身も行き着く場所に辿り着いたのだった。