cero 『Yellow Magus』
ブラック・ミュージックにインスパイアされた、リズムに対する意識の変化が生んだ新しいサウンド! 彼らが今後めざすものとは……?
ceroがさらに進化しつつある。ニュー・シングル『Yellow Magus』を聴いてそんな手応えを掴む人もきっと多いことだろう。言ってみれば、大いなる想像力で物語を描くバンドから、確かなスキルとグルーヴを伴って音を鳴らすバンドへ——その過程が2013年だったとメンバーは語る。
「『My Lost City』の曲は、限られたメンバー内でガチャガチャとパートを交替することで実演を可能にしてきたんですが、その方法論では出来てくる新曲群に対応しきれないところがあって。そこで思い切って編成を変えて、ボトムをより強調しようと思いました。それを可能にしてくれたのは、身近な仲間の存在が大きいです」(高城晶平、ヴォーカル/フルート/ギター)。
ドラムに光永渉、ベースに厚海義朗という、あだち麗三郎クワルテットなどにも参加している〈身近な仲間〉を新たに迎え入れ、新編成でステージに立つようになったことから、2013年のceroはよりタイトなバンドとなっていく。
「リズムへの意識が芽生えたのが大きかったですね。いままでは歌詞やメロディー、コードから作って、リズムを付けるのは結構後の作業だったんですけど、曲を作る最初の時点でリズムを考えていくようになった。例えば……3連譜と8ビートって普通はどちらかが選択されるんですけど、最近のヒップホップとかではドラムが3連で他の楽器は8で刻まれたりする。それをあたりまえのように聴いていたんですけど、改めて譜面上で捉えてみるとすごく刺激的だと思った。そういう新しい視点でブラック・ミュージックを聴くのが楽しくなってきたし、曲作りにも影響が出るようになったんですよ」(荒内佑、キーボード/ベース)。
こうした過程から生まれたのが今回のシングルだという。ここには高城を中心に書かれた“我が名はスカラベ”“Ship Scrapper”、荒内が軸になっている“Yellow Magus”“8points”の4曲が収録されており、共通しているのはリズムが緻密に重なりながら躍動していることだ。荒内は最近のロバート・グラスパー作品を音作りの参考例として挙げてくれた。しかしメロディーの良さはまったく失われていないし、それどころかこのバンド特有のちょっとイビツな旋律はかえって活きているように聴こえる。リズム面でさりげなくメスを入れているのに、普通にポップないい曲としても聴けるのだ。
「それは嬉しいですね。ミックスは今回もメンバーのはしもっちゃん(橋本翼、ギター/クラリネット)に任せてるんですけど、もしかするといちばん大変だったかもしれない。いままでやってきた音作りでは高音とミドルが中心でしたからね。でも、この4曲のレコーディングを経たことでバンドとして確実に次の段階へ入ったと思いますよ」(高城)。
もとからジャズ、ソウル、ヒップホップ、テクノ、ハウス、ラウンジ・ミュージックなどをユーモアたっぷりに吸収した、洒脱なポップスを聴かせるバンドだった。しかし、いまの彼らにはそこを軸にしつつもさらに明確な目標があるようだ。
「日本で言うR&B的な音ってだいたいがオーヴァーグラウンドにある音楽になりますよね。まあ、制作にお金がかかる音楽だからっていうのもあるかもしれないですけど。でも、例えば藤井洋平のような黒人音楽指向のインディー・アーティストが、僕らと同じタイミングで作品を出したのはすごくアツい出来事でしたね。これからインディーにいる僕らが、そういうR&B的な感覚をもっと採り入れた音に挑戦できればおもしろいなと感じています」(高城)。
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カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2014年01月24日 19:40
更新: 2014年01月24日 19:40
ソース: bounce 362号(2013年12月25日発行)
インタヴュー・文/岡村詩野