上妻宏光
根っこと根っこのぶつかり合い。そこから響く音。
インタヴューのために届いた上妻の新作を聴いて、正直驚かされた。バーデン=ヴィニシウスによるアフロ・サンバの名曲《ビリンバウ》のイントロを上妻の三味線が奏でている。小野リサの端正な歌声が終わると、上妻の三味線が前面に出てくるのだが、そこで上妻はブラジルに吹く風を一気にニッポンへと引き戻すソロを聴かせる。単に表層だけの共演ではない。根っこと根っこのぶつかり合いがその音の裏側にあった。
「移籍第一弾と言うこともありますが、十数年やってきて近頃は三味線ができるだけ響く作品を作りたいという意識が強くなってきました。今まで共演というと自分のオリジナル作品ですることが多かったのですが、その共演相手のルーツを知って、より深く追いかけることで自分自身も確認したいと思ったんです。足下を固めることでもあります」
小野リサ、小松亮太、沖仁、MIYAVI、上間綾乃、U-zhaan、ヨシダダイキチ……共演相手をよく見ると、あるジャンルの音楽を追いかけつつ、それをベースに新たな音楽を模索している人ばかりだ。
「楽曲は相手がやり易い状況だとおもいます。そこでただ一緒に演奏するのではなく、自分のルーツである民謡や弦の響きを混ぜ込んでいく感覚でしょうか」
いわばアウェー状態。勝手の違う相手のフィールドでやりづらさはないものかと思うのだが、それはあまり感じなかったと上妻は言う。 「ただMIYAVIさんとは音のバランスを取るのに時間がかかりました。小松さんとのは緊張感がありましたね。三味線には難しいフレーズがありましたから」
さらに自分自身の足下を見つめる作品も収録している。その一つが、北茨城の民謡である磯原節だ。この曲は北茨城に生まれた詩人、野口雨情の手によるもので、彼が全国の風物を元に作った新民謡の一つだ。
「ええ、この曲は自分のルーツを意識して選びましたが、それだけではなく、磯原節を選んだのは、震災による津波の影響もありました(北茨城は太平洋に面していて津波被害を受けている)。故郷を思ったときに出てきたのがこの曲だったんです」
最後になったが、もう一つの話題はこの作品を期にレーベルを移籍したこと。上妻はより表現しやすい環境を求めた結果だと言うが、コロムビアは日本の音楽の良質な音源を持っているレーベルだ。往年の名人上手達との時空を越えた共演も期待できそうだ。
「今回そのアイデアも少しありました。でもそれはこれからのプランと言うことで」
新天地に降り立った上妻宏光。そのこれからに、ますます期待が高まるのだった。
LIVE INFORMATION
『上妻宏光 Concert Tour 2014「GEN-源-」』
○2014/2/16(日)兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール
○23(日)新潟市民ププラザ
○3/9(日)ウインクあいち(愛知県産業労働センター)
○16(日)都久志会館(福岡)
『上妻 宏光 日本流伝心祭 クサビ-楔- 其ノ参」』
○2014/3/22(土)渋谷公会堂