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第5回 ─ 60年代ブリティッシュ・バンド最高のライヴ・アルバムは?

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2004/08/19   19:00
更新
2004/08/20   00:14
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文/久保 憲司

『NME』『MELODY MARKER』『Rockin’ on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ久保憲司氏の週間コラムがbounce.comに登場! 常に〈現場の人〉でありつづけるクボケンが、自身のロック観を日々の雑感と共に振り返ります。

8月12日(木) THE KINKS『Live At The Kelvin Hall』

  先週はストーンズの『Get Yer Ya-Ya's Out!』を聴きまくったから今日はストーンズの初期のライヴ『Got LIVE If You Want It!』を聴きたくなった。ぼくはパンクだったから本当はこっちの方が好き。ミック・ジャガーがセックス・ピストルズかなんかのパンク・バンドを見に行って「僕らの昔みたい」と言っていたけど、まさにその通り(関係ないけど、ミックは「僕らの昔みたい」というのが好きで、ドアーズを見に行ってもそう言っていた。でもそれもよく分かる)。マンドゥ・ディアオが好きな人が聴いても楽しめるんじゃないだろうか。しかし、無茶苦茶ブリティシュである。そして『Get Yer Ya-Ya's Out!』と聴き比べると、こんだけ頂点を極めたバンドが成長するために信じられない努力を払っていたことがわかり、感動する。

 ところで、60年代中~後半のブリティッシュ・バンド最高のライヴ・アルバムは、キンクスの『Live At The Kelvin Hall』である。ヤードバーズの『Five Live Yardbirds』のほうがいいという人がいるかもしれないが、ぼくは絶対『Live At The Kelvin Hall』だ。記録が残されている中で判断するなら、あの時期の最高のライヴ・ロック・バンドはキンクスだろう。こんなにワイルドでスイートなロック・バンドがいるだろうか? 最も油が乗っていた時のニルヴァーナと比較してもキンクスに軍配が上がるのではないだろうか。ピート・タウンゼントは、「みんなが3大ロック・バンドはビートルズ、ストーンズ、フーというけど、俺にとっての3大ロック・バンドはビートルズ、ストーンズ、キンクスだ。俺たちはキンクスに勝つために努力し、いつも負けた。そしてこのままじゃ生き残れないので苦肉の策として『Tommy』を作ったんだ」と言っていた。ぼくはフー命の男なので、「そんなこと言わないでくれよ、ピート」という感じなのだが……。この時期のフーのライヴが残っていないのが本当に残念だ(あるのかな?)。

 ビートルズにも60年代後半のライヴ音源で聴けるものがほぼない。ハリウッド・ボウルの奴があるけど、歓声が入りすぎてとても聴けたもんじゃない。まあ、この時期のライヴは「本当に完全にライヴなのかい?」という疑問も生まれるのだけど。たとえば、もっと後だとディープ・パープルの名作『Live In Japan』は、ギターの音がオーヴァー・ダビングされているような気がする。でもそんなことは置いといて、『Live At The Kelvin Hall』を聴くと、ロック・バンドが思想やドラッグに犯される前の〈本物のロック〉がぼくを興奮させてくれる。