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第6回 ─ 奇跡のロックン・ロールが宿るジョニー・サンダースのライヴ盤

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2004/08/26   17:00
テキスト
文/久保 憲司

『NME』『MELODY MARKER』『Rockin’ on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ久保憲司氏の週間コラムがbounce.comに登場! 常に〈現場の人〉でありつづけるクボケンが、自身のロック観を日々の雑感と共に振り返ります。

2004年 8月24日火曜日 JOHNNY THUNDERS & THE HEARTBREAKERS『L.A.M.F.』

  またしてもライヴ・アルバムになるけど許してください。先週60年代ブリティッシュで最高のライヴ・アルバムは、キンクスの『Live At The Kelvin Hall』だと書きましたが、年代を問わずに「最高のロックン・ロール・ライヴ・アルバムは?」と聞かれると、ぼくにとっては間違いなくジョニー・サンダース&ハートブレイカーズの『L.A.M.F.』なのです。ロックン・ロールとロックの違いは何なのかとても難しいですが、間違いなくこのアルバムにはパンクが目指したもの、小難しくなったロックを若者に取り戻そうとしたスピード感とスリルとダンスがあります。どんなノイズ・バンドよりもかっこいいSEと共に登場し、どんなドラッグよりも気持ちよくさせてくれる最高に歪んだエレクトリック・ギターから始まる“Milk Me”、すべてを支配しているのはギターのコード感だ。2本のエレキが見事に絡み合う、それは無限の喜びだ。そしてジョニー・サンダースとウオルター・ルーのダブル・ヴォーカル。リヴァティーンズにも引き継がれるスタイル。「これこそが本当のロックン・ロールだ!」とジョニー・サンダースは言ってるかのようだ。

 一番最初のハートブレイカーズのメンバーだったリチャード・ヘルが歌っているヴァージョンもあるのだろうか? そのリチャード・ヘルの一番最初のバンド、ネオン・ボーイズはダブル・ヴォーカルだったっけ? あの三味線のようなギターと後にテレヴィジョンを作るトム・ヴァーレインの高い声しか覚えていない。でも、ぼくにとって一番かっこいいと思えるバンドはネオン・ボーイズなのだ。パンクの準備はいろんな所で行われていた。レニー・ケイは、パティ・スミスは何だったのかと聞かれて、「3ミニッツ・ポップスを復活させたかった」と言っていた。たぶんレニー・ケイが編集したコンピレーション『Nuggets』に入っているようなガレージ・パンクがやりたかったんだろう。パティ・スミスのヴォーカルは独特だ。「一体あんなヴォーカル・スタイルどうして作ったんだろう?」と思っていたらSHEというちょっとドアーズぽいその辺のガーレジ・パンク・バンドがパティ・スミスそっくりなヴォーカルでビックリした。

 おっと話が色んな方向に行き過ぎた、パンクの準備はニューヨーク・ドールズだったということをぼくは言いたいのだ。あの時代3分間の革命をみんなに提示したのはニューヨーク・ドールズだった。「3分間の革命なんてあり得ない」という声が聞こえてきそうだが、ラジオから流れてきたビートルズを聞いてすべて変わったみたいな話はよく聴くでしょ? あるんだよ。全学連くずれのマルコム・マクラーレンは3分間ポップの革命という思想にすぐ飛びついた。モリッシーがセックス・ピストルズなんかなまぬるい、真の革命的バンドはニューヨーク・ドールズだと言うのはそういうことなのだ。そしてニューヨーク・ドールズは再結成するんだよ。見に行こうかな。アラン・マッギーが「セックス・ピストルズの再結成なんか、絶対見たくない」と言っていたけど、「見てみたらその楽曲の凄さにやられた」ということを言っていて、その感じがニューヨーク・ドールズの再結成と被るような気がする。〈腐っても鯛〉みたいなことじゃなく、彼らが何を目指していたのかということは何十年経っても、どこかに残っているんじゃないかな。再結成し、今年3月に来日したストゥージズを見て、やっぱり彼らはあの覚醒するグルーヴを作ろうとしていたのだというのがよく分かったもんな。あのグルーヴはストゥージズしか出せないもんな。

 ニューヨーク・ドールズが革命的とかそういうことは置いといて『L.A.M.E.』にはそんなのに疲れたジョニー・サンダースが音楽だけだよ、と言っているストレートな無邪気さがある、そしてロンドン・パンクに取られた自分たちのスタイルを取り戻そうという思いもあってここに奇跡のロックン・ロールが残っているのだ。聞いてみてください。