『NME』『MELODY MARKER』『Rockin’ on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ久保憲司氏の週間コラムがbounce.comに登場! 常に〈現場の人〉でありつづけるクボケンが、自身のロック観を日々の雑感と共に振り返ります。
2004年9月13日(月) V.A.『Anthology Of American Folk Music』
先週聴いたニューヨーク・ドールズに感動したので彼らのことをネットで調べていたら、ヴォーカルのデヴィッド・ヨハンセンが『Anthology Of American Folk Music』をソロでカヴァーするという情報を見つけた。このアルバムは、アメリカのトラッド・ミュージックとして知られるハリー・ネルソンが編集した、〈ボブ・ディランの元ネタ集〉と言われる名コンピレーション。さすが、ロックン・ロールの本当の姿を剥き出しにした音楽をやろうとしたニューヨーク・ドールズのヴォーカルだなぁ、と関心した。そのCDは今度新宿タワーに買いにいこうと思う。
というわけで今日は『Anthology Of American Folk Music』。ぼくも大事に持っている。今、聴きながら原稿を書いているんだけど、このアルバムは、英語が苦手なぼくには難しい(完璧な解説がついた日本語版が出たらいいのに……)。『Cold Mountain』、『O Brother』、『The Ladykillers』のサントラの方が分かりやすい。でも、ひしひしと伝わってくる。これを自分なりに現代に訳せるなら、ぼくはアーティストになれるのだろう。ぼくが今言えるのは、決してブルースなどが黒人から生まれたということじゃなく、白人のフォーク・ミュージックがブルースになったのだろうということだ。そしてもっというならアメリカに来るまえからヨーロッパでその準備はされていたのじゃないか、ということだ。クラッシックも関係するだろうし、賛美歌も。ぼくはそれが知りたい、ロックンロールとは何なのか、なぜ誕生したのか。
映画『Master And Commander』では二人の主人公が、船の中でクラッシックを演奏する場面が出てくるが、その演奏はむちゃくちゃアドリブで、ファンキーだった。ぼくは、クラッシックも本当はもっと、聴いた人が踊りたくなるようなファンキーな音楽だったんじゃないかと思っている。クラシックの原点と呼ばれるような音源が譜面にしか残っていないから、今はああいう風になっているんじゃないんだろうか。
『Anthology Of American Folk Music』は今のぼくらをそんなに踊らせてくれないけど、昔の人はこれらの音楽を聞いて踊っていたんだろうなと想像ができる。ギター1本でもちゃんと低弦がリズムをとっている。海外のロックの元にはこういう素晴らしい音楽があるというのは本当にうらやましい。どの曲も今風にアレンジすれば売れる要素をもっている。『O Brother』のサントラが全世界で何百万枚も売れたのはそういうことだろうし、ぼくらにとっては今の沖縄ブームがそういうことなのかもしれない。
『Anthology Of American Folk Music』は、ボックスセットでの販売なのでとても高い(他にもっと安くっていいものがあるのかもしれないが)。一回聴いたら棚にずっとしまわれてしまうCDかもしれないんだけど、意識が高いミュージシャンの多くが持っているアルバムと言われているので、みなさんもぜひ買ってみてください。あなたの好きな音楽が100年前と根本では何も変わっていないことに衝撃を受けると思います。
P.S. ギンズバーグのインタビューに書いてたんだけど、ハリー・スミスは、あのファグス(聞いたことないけど)のプロデュサーだったみたい。しかもギンズバーグをいつもハッパでトバしていたみたいだ。けっこう真面目な学者だと思っていたのに。