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第38回 ─ パンクとサイケデリックの融合を試みた、オアシスの新たな挑戦

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2005/05/26   17:00
更新
2005/05/26   20:29
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文/久保 憲司

『NME』『MELODY MARKER』『Rockin’ on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ久保憲司氏の週間コラムがbounce.comに登場! 常に〈現場の人〉でありつづけるクボケンが、自身のロック観を日々の雑感と共に振り返ります。

2005年5月25日(水) OASIS『Don't Believe The Truth』

  ついに出た! オアシス6枚目のアルバム!! ノエル・ギャラガーが言うほどすごくないかもしれないが、いつものようにジャケットもかっこいい。イギリス産のブランドのような、伝統と気品とエキセントリックさを感じる。

 パンクとサイケデリックの融合という誰でも思いつきそうなアイディアを本当に自分たちのものにしたオアシスに、なにを言うことがあろうか。ニルヴァーナやレッド・ホット・チリペッパーズなどのバンドにしか出せないサウンドがあるように、オアシスにはオアシスだけのマジックがあるのだ。

  確かにそのマジックは以前に比べ弱まったのかもしれない。『Definitely Maybe(邦題:オアシス)』、『(What's The Story) Morning Glory?』、『Be Here Now』の3部作と言っていいアルバムをリリースした時点で、オアシスの使命は終わってしまっていたのかもしれない。でも00年の『Standing On The Shoulder On Giants』も、02年の『Heathen Chemistry』も全部いいんだよ。みんなが言うほどオアシス・マジックは落ちていない。始めの2作があまりにも凄かったのだ。でも『(What's The Story) Morning Glory?』が出た時は評論家から総スカンだったんだけど。

  今作『Don't Believe The Truth』もいい。ノエルが5曲、リアムが3曲、アンディ2曲、ゲム2曲に日本盤は2曲もボーナス・トラックがついてる。と、ノエル率が減っていってもどの曲も全部オアシスなのだ。ディストーション・ギターが曲中を駆け巡り、リアムのジョン・ライドンから受け継いだ素晴らしい節回しがサンシャーイ~ンなのだ。

  でも本当にノエルはパンクとサイケデリックの融合を夢見ていたのだろうか? それは元レーベル・オーナー、アラン・マッギーの夢だったんじゃないだろうか。初期3部作はデヴィッド・ボウイの『Rise & Fall Of Ziggy Stardust & The Spiders(邦題:ジギー・スターダスト)』そのものである。『ジギー・スターダスト』は、地球外から来た宇宙人がロック・スターになった話と思われがちだが、あれはまだスターになっていなかったボウイが、ロック・スターの栄光と挫折を描いた物語である。ノエルは一枚目でロック・スターになる夢を歌い上げ、2枚目でそのロック・スターの挫折を歌い、3枚目は落ちぶれたロック・スターが地元のバス停に帰ってくる所から始まる。ノエルはピンク・フロイドの『The Wall』(これも『ジギー・スターダスト』的ストーリー)にも影響されたそうだが、インスパイラル・カーペッツのローディーをしながらあれだけのストーリーを考えていたかと思うと恐れ入る。

  今回アンディ・ベルが「スターダスト」という映画をメンバーにとてもいいからと紹介したそうだ。そしてそれが9曲目“Keep The Dream Alive”になる。不思議なのは、このロック・クラシック映画の名作を他のメンバーが知らなかったということだ。映画のストーリーの最後は、遊園地で落ちぶれたロック・スターが掃除人をしていると、子供から「あんた誰々だよね」と聞かれてデヴィッド・エセックスが「君はこれでもロック・スターに成りたいかい?」と返事をして終わる。もろオアシスの初期3枚を物語にしたような内容だ。デヴィッド・エセックスのようなポップ・スターでもこのような映画を作るのだ。ちなみに、スレイドの「Slade In Flame」もそういう映画。たぶんこの感覚がアメリカン・バンドとブリテイッシュ・バンドの一番の違いだと思う。どこか冷めている。だからかっこいいんだけど。とにかく、オアシスのストーリーがどこまで続くのかぼくは分からないけど、ぼくは永遠にオアシス・ファンなのだ。