『NME』『MELODY MARKER』『Rockin' on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、デビューから約30年を経ても現役バリバリのロッカー、ポール・ウェラーの新作をご紹介。
『As Is Now』というタイトルの通り、「ポール・ウェラー、サラっと作りました」なんて印象を受けてしまうかもしれないけど、ズシーンとやられてしまった。ソロになってからは全てそういう感じなんだけど、ジャム~スタイル・カウンシルという重い勲章を背負いながら、ポール・ウェラーはよく立っていられるなと思う。
このアルバムは今のイギリスのバンド・シーンに答えるかのように作られている。傑作『Stanley Road』と『Heavy Soul』が、オアシスなどのブリット・ポップにリンクしていたように、『As Is Now』はリヴァティーンズやカイザー・チーフス、オーディナリー・ボーイズなど、今のイギリスのギター・バンドたちに素直に反応しているアルバムだ。増井修さんが関わっている雑誌「TONE」のインタビューで、ポールが「俺にとってレコード屋に行くのは子供が駄菓子屋に行くようなもので、止められないんだ」と語っていることからもそれがわかる。
オアシスの時代まではわかるんだけど、今でも若手のバンドに〈お前らそう来るか、じゃ俺はこうだぜ〉という気構えを持っていることが凄い。ポール・ウェラーのコアなファンなら、彼がたまに奇行と思えるような行動を取ってしまうことを知っているはずなんだけど(確かスタイル・カウンシルの後期、彼が森の中でどこかの民族のような格好をしている写真があって、ぼくはあれが未だに気になっている)、この感じからすると今までのポールの活動は全て間違っていなかったんじゃないかとすら思える。ちなみにスタイル・カウンシル最後のアルバムであり、なぜかお蔵入りになってしまった『Modernism: A New Decade』はハウスとか言われていますけど、あれはハウスじゃなくてアシッド・ハウスだ。ポールは、アシッド・ハウスが新しいノーザン・ソウルであり、モッズやパンクと同じようにイギリスの若者が生んだ重要なユース・カルチャーであるということが分かっていた数少ないアーティストの一人だった。このアルバムは、2001年に正規発売されているから、興味のある人は聴いてみてください。
いろんな所で書いているんだけど、ぼくには座右の銘がある。ジョー・ストラマーの〈一度時代を作った奴はもう一度時代は作れない。後は一歩引いた感じでやっていくだけだ〉という言葉だ。口で言うのは簡単だけど、重い言葉ですよね。こういうことをしっかりと噛み締めていないとスターは大変なことになっていく。でもこのアルバムを聴いたら、ポール・ウェラーには4度目の頂点が訪れそうな気がしている。聴くたびに、ノエル・ギャラガーのようにぼくも「兄貴ー!!」と思わず叫んでしまいます。