『NME』『MELODY MARKER』『Rockin' on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、10年前にリリースされたチャリティー・アルバム『Help』の第二弾『Help:A Day In The Life』をご紹介。
2005年10月21日(金) V.A.『Help:A Day In The Life』
発売して1ヶ月以上経っていますが、発売していることを知らなかった。先日九州に仕事に行って、タワーレコードに入ったら、このCDがかかっていてびっくりしたのでレビューさせてください。日本ではあまり話題じゃないんですかね。素晴らしいコンピ&チャリティ・アルバムだと思うんですけど。でも、実をいうとぼくも彼女がダウンロードで買っていたのに聴いてなかったんです。どうもファイル音源だとピンとこないみたいで、そういう自分のオッサン臭いところが嫌です。メンツもしょぼいと思っていた。レディオヘッドからコールドプレイまで、というのが現在のイギリスのシーンを表しているようで。
しかし聴いてみると、とってもよかった。10年前に発売された前作『Help』と同じく全体に独特の暗さがあります。アメリカのバンドだとこうはならないと思うのです。巷ではレディオヘッドの新曲が話題でしょうが、ぼく的にはコーラル、ズートンズの流れにやられました。ニール・ヤングのようなギター・メロディが切ないゴー!チームもよかった。一番オッと思ったのは意外にも、カイザー・チーフスの“I Heard It Through The Grapevine”。ファン・ボーイ・スリーのようなニュー・ウェイブ・アレンジが笑えます。センスいい。
楽しみにしていたベビシャンはもう一つ。曲名が、“From Hollywood To Battersea”じゃなくて〈Bollywood〉になっているのはかっこいいんだけど。前回に続き参加のマニックスがかっこいいギターリフでよかった。レイザーライトの新曲もレディオヘッドくらいの出来かな。他に気に入ったのはマイロ。本当にコンピューター一つで作っている感じが気持ちいい。レイ・ハラカミさんも昔、誰もが買えるローランドのDTM音源だけで素晴らしい音楽を作っていたけど、それと同じだ。
にしても、これを聴いて思うのはやっぱり前作が凄かったということだ。録音がスタートしてから1週間でCDを発売して、ソング・クレジットも何も入ってなかったけど、いい曲ばかりだった。「これは誰なんだ?」と考えながら聴いたのも懐かしい思い出です。1曲目のロッキン・チェアーなアレンジのオアシス“Fade Away”から始まり、ブー・ラドリーズのこれでもかというくらい切ない“Oh Brother”。ストーン・ローゼズの“Love Spreads”のライヴ(でも今聴くとライブじゃないような……)、ピンク・フロイドも真っ青なレディオヘッドの“Lucky”、そしてエレクトリックなのにこれまた切ないオービタル“Adnan”。この頃はまだダンス・シーンが力強かったんだよなぁ……。最後は、このアルバムでいちばん面白くない曲、オアシス、ポール・ウェラー、ポール・マッカトニーらによる“Come Together”なんだから凄いでしょ。
「10年前のイギリスのロックのほうが面白かった」と言う気はないけれど、まだエクスタシーの余韻が残っていて、みんなまだ何かやれるんじゃないかという心意気があったような気がする。現在のバブルまっさかりのイギリスと聴き比べてみてください。はじめに書いたように本質は変わってないんですけど、何か変わっているのかも。でも変わってないのかも。どうなんでしょう。時が答えてくれるでしょう。