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第58回 ─ 発想の転換でリスナーを楽しませてくれるティガのダンス・ミュージック

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2006/03/23   17:00
テキスト
文/久保 憲司

『NME』『MELODY MARKER』『Rockin' on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、2月にデビュー・アルバムをリリースしたエレクトロクラッシュ界の伊達男、ティガについて。

Tiga 『Sexor』

  サワディカップ。タイ帰りの久保です。バンコクに2日間、王室御用達のリゾート地ホアヒンに2日間行ってきました。バンコクはちょうどファッション・ウィークで盛り上がっていました。泊まっていたメトロポリタン・ホテルが、関係者のたまり場だったみたいで、そういう人たちがうようよしていて面白かったです。「どう考えてもお前は香港映画のコメディアンじゃん!」ってオッサンがマルジェラのTシャツを着ている姿を見たり、隣の駐車場でやっていたファッション・ショーに出ているバンドを「イギリスの若手バンドかもしれない!」と小走りで見に行ったら、タイの若い子が一緒懸命グランジっぽい音楽をやっていてズッコケたりしました。でもショー自体は凄くよくて、東京よりもオシャレな人が集まっていたような気がするとぼくの彼女が言ってました。ぼくも、「やっぱ、バンコクが東洋のパリになるのかな」と相づちを打ったのですが、こんな夏服しか着られないような国で商売になるんでしょうか? タイのバンドもそうでしたが、若い人たちがみんな頑張っている感じがするところはすごく好感が持てたんだけれど。

  とあるロック・バンドの撮影の資料としてティガの『Sexor』を買ったらむちゃくちゃやられました。ブライアン・フェリー『In Your Mind』のモロパクリのジャケットに感動して、ぼくもこういう風に撮りたいと思ったのです。ジャケがパクりということもあり、どうせよくある今流行りのニュー・ウェイヴ風なのかと思っていたのですが、発想が180度違っていました。数々のアシッド・ハウス、バレアリックの名曲をニュー・ウェイヴ風にしているのです。エル・プレジデンテがディスコの名曲を上手くロック風にアレンジして、新しい音楽にしていたのを聴いたときと同様、やられてしまいました。

  リズム・マシーン、ベース・シンセ、チープなシンセと歌だけで作られているんですが、ティガ自身アシッド・ハウス、レイヴが出て来た時こういう音楽を世に広めなければとモントリオールでレコード屋さんをやっていただけあって、骨のある感じがとてもいいんです。そして歌もいい、スミスと同じくらい感動するものがあります。カヴァーのセンスもいいです。トーキング・ヘッズの“Burning Down The House”、パブリック・エネミー“Louder Than A Bomb”、ナイン・インチ・ネイルズ“Down In It”などが今風のダンス・ミュージックになっています。

  最近、音楽もそろそろダメかなと思っていたんですが、こうして目からウロコの発想でぼくを驚かせて、楽しませてくれるんだから、音楽って本当におもしろいなと体を揺らしてます。タイとかそういう所からも出てくるんだろうな。楽しみです。