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第61回 ─ イギリスで70万枚を売り上げた国民的バンド、ズートンズ

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久保憲司のロック千夜一夜
公開
2006/05/04   16:00
更新
2006/05/04   19:04
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文/久保 憲司

『NME』『MELODY MARKER』『Rockin' on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、イギリスでは既に国民的バンドとして知られるズートンズとリヴァプールの関係について。

THE ZUTONS『Tired Of Hangin' Around』

  ピンボールのジャケットがダサイような気がして中身を心配したズートンズのセカンド『Tired Of Hangin' Around』ですが、イギリスで70万枚近くのセールスを記録した傑作デビュー・アルバム『Who Killed...The Zutons』を完全に超える会心の一枚。マジでいいです。さすがにイギリスで国民的バンドになりつつあるだけのことはある。

  コーラルのサード・アルバム『The Invisible Invasion』がもう一つだと思っていただけにうれしいです。ズートンズもコーラルも方向性は同じだと思うのです。どちらも、キャプテン・ビーフハートやガレージ・サイケ、サンフランシスコっぽいファンクなど、本来であればポップスにならない、コアなファンの間だけで消化されていく音楽を見事に現代のポップ・ミュージック=ロックにしている所にかっこよさがあると思います。コーラルのセカンドは、コーラルならではのディープな世界がメインとなり、わかりやすいヒット曲が1曲だけという構成でした。本人たちがそういうムードだったのかもしれないのですが、それが残念だったなと。

  『Tired Of Hangin' Around』は、どれをとってもシングル曲になること間違いなし。音楽もそうなんですが、パイ時代のキンクスのようなニヒルな歌詞もいいです。全部暗い歌ばっかりなんだけれど、イギリス人はこういうのを聴いて自分を笑って元気になるのでしょう。

 2曲目“It's The Little Things We Do”なんて〈昨日は酔っぱらって、女の子もいて楽しくって、最高の一日だったのに、朝起きると泣きたくなっているのはなぜだろう〉と歌っている。40歳のオッサンにはこの気持ちがよくわかります。そしてそのあとは、こんな気持ちでいたらまずいから、朝ご飯にサンドイッチでも作ろうとする。そしたらそのサンドイッチが〈食べんといて、ぼくはあなたの胃に入れるような代物じゃないんです〉と喋りだしてしまう。このコミック・ストリップ~ヤング・ワンズ(どちらもイギリスのモンティ・パイソンに次ぐ素晴らしいコメディ番組です)の世界みたいな歌詞がいいんだ。

  ブルースといえばブルースなんだけど、リヴァプールの人が歌うからグッとくる。イギリス人の友達に「大阪ってどんな町?」と聞かれて「コメディアンの町だよ」と答えたところ、「リヴァプールみたいな所か」ってあっさり答えられてビックリしたことがある。本当かどうかは知らないけれど、リヴァプールは政府が意図的に犯罪者を送り込んだ町という噂もある。かつてイギリスは、統治下にあったオーストラリアに自国の罪人を送ったという事実があるから、ありえる話なのかもしれない。

  リヴァプールとアメリカの関係というのも面白い。ビートルズが出てきたあと、それに影響されてドアーズなんかのサンフランシスコのサイケ・バンドが出てくることになる。そういう影響が薄れてきたパンクの時代には、エコー&ザ・バニーメン、ティアドロップ・エクスプローズなどサンフランシスコのサイケに影響されたバンドが出てきたりする。そしてズートンズ。おもしろいなぁ。日本ではまだまだ評価されていないけれど、みなさんも聴いてその魅力にやられてみてください。先週書いたフレーミング・リップスも一緒だけれど、言葉がわからなくっても、心を揺さぶられるはずです。ズートンズはそういうバンドです。