NEWS & COLUMN ニュース/記事

第2回 ─ WIM WENDERS

連載
DIRECTORs CHAIR
公開
2006/05/11   14:00
更新
2006/05/11   15:24
ソース
『bounce』 275号(2006/4/25)
テキスト
文/長屋美保

 70年代からロード・ムーヴィーの先駆者として活躍するヴィム・ヴェンダースは、旅をとおしてさまざまな愛を描いてきた。ロング・ショットの多用、言葉少なに空気で会話する登場人物たちといったワビサビを感じさせる作風であるが、描かれている内容はかなり現実的だ。それを物語るかのように、彼の映画に登場する男たちは例え主人公であっても容赦なくカッコ悪くて情けない。「まわり道」のうだつのあがらない小説家も、出世作である「アメリカの友人」に登場する男たちも、「パリ、テキサス」の女房に逃げられた記憶喪失の男も、こっちが観ていてイラつくほどみじめだ。彼らは友人、恋人、夫婦、または親子であったとしても、他者と真剣に向き合う、つまり人を愛するのは自分と対峙することに他ならないと気付く。そのせいで彼らの孤独は際立つが、愛を悟る旅で少しずつ強くなっていく。そして観客は、あんなに冴えないと思っていた男たちの人生を好きになってしまう。そう、これぞヴェンダースの魔法なのだ。

 80年代後半からは低迷気味だったヴェンダースだが、「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」で音楽ドキュメンタリーの新たな境地を開いて復活。音楽の神が宿るキューバへの最大のリスペクトが感じられるシンプルな映像は、世界中の共感を呼んだ。間もなく日本でも公開予定のキューバ音楽映画「ミュージック・クバーナ」の製作に関わっていることからも、彼のキューバに対する愛情がわかるだろう。

 さて、ヴェンダースの次の旅の行き先はどこだろう。きっと彷徨いながらも前進する旅になるに違いない。私たちの人生のように。

ランド・オブ・プレンティ 角川エンタテインメント 
2005年公開の新作が早くもDVD化。母の死により10年ぶりにアメリカに帰国した主人公と、心の傷を抱え続ける彼女の叔父との絆の物語。〈9.11〉以降のアメリカの傷口を鋭く捉えながらも、切なくじんわりと温かい気持ちになるヴェンダース節ロード・ムーヴィーの会心作。

記事ナビ