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第81回 ─ ヴューに受け継がれたUKロック特有の詞世界

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2007/02/15   12:00
更新
2007/02/15   18:53
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文/久保 憲司

『NME』『MELODY MARKER』『Rockin' on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、プライマル・スクリームのボビー・ギレスピーも太鼓判を押す平均18歳の新星バンド、ヴューのデビュー・アルバム『Hats Off To The Buskers』について。

THE VIEW『Hats Off To The Buskers』

  リバティーンズの次の世代というか何というか、結構いいです、ヴュー。曲もいいけど、歌詞の感じがいい。『Hats Off To The Buskers』というアルバム・タイトル通り、バスカーズ(ストリート・ミュージシャン)が作ったような歌詞がグッとくる。

クラッシュのミック・ジョーンズもよくこんな歌詞を書いていました。大スターになっても〈俺はお客から小銭を投げてもらって生活するくらいのストリート・ミュージシャンだ〉みたいな歌詞とミックならではのマイナー・コードが涙を誘ってくれました。リバティーンズは見事にそんな系統を受け継いだ。そしてヴューも。

  アークティック・モンキーズ、リトル・マン・テイトなどはヒップホップな歌詞というか、状況を描写しながらも、北の人間らしい、皮肉な感じが出ているんだけど、ミック・ジョーンズやリバティーンズなどはコックニー(ロンドンの労働者階級)らしい、自分たちを見下しながら笑いをとる感じがぼくは好きです。

リバプールは、たくさんのコメディアンを出しているところからイギリスの大阪だとよく言われるのですが、ぼくはコックニーの方が大阪人と似ていると思う。

  「The Beatles Anthology DVD BOX」に収められているビートルズの記者会見は、素晴らしいユーモアに溢れていて、「本当にミュージシャンかよ、凄いな」と感心して何回も見てしまうのだけど、その笑いはまさに北部の人間特有のもの。アークティック・モンキーズの歌詞のようにどこかニヒル。オアシスの弟リアムが新人バンドをバカにする時の最高の比喩の数々「ブロック・パーティーっていいかもしれないけど、奴らってアーティストというより、クイズ番組によく出てくるような学生にしか見えないんだよな」のような皮肉な笑いが感じられる。

でも、ぼくはやっぱり自分たちを蔑みながらも笑いをとるコックニーの感じの方が好きだ。ヴューはスコテッシュだから全然関係ないんだけど、その視線はコックニーと一緒。支配されてきた人たちは自分を笑いものにしつつ、生きていくしかないのだ。そして、最後には王様をチクリと刺すみたいな感じ。

  古く歴史をさかのぼれば、ストーン・ローゼズのブレイクから始まったイギリスのロック・ブーム。ブリット・ポップがあり、ダンス・ミュージックによって完全にシーンが死んでいた時期もあった。そんなシーンを復活させたバンドたちも、ほとんどがセカンド・アルバムで苦戦した。それはバンドに力がなかったんだよなと、ぼくは思っていたんだけど、今こうしてヴューなどを聞いて思うのは、こんだけいいバンドがたくさん出て来ているからそれは仕方がないことなんだな、ということ。

そして、オアシスのノエルがブリット・ポップについて「みんながブリット・ポップはクソだったと言うけど、俺はそう思わないよ。シングルとかではいいバンドがたくさんいたんだ。そういうシーンだったんだよ」と言っていた。ぼくもそう思う。その次の世代はいいシングルといいアルバムを作った。そして、このヴューなどは、いいシングルといいアルバムを何枚も作れる世代だと思う。リリー・アレンもアメリカで売れたみたいだし、そろそろバンドでもアメリカで売れる人たちが出てくるんじゃないでしょうか。