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第85回 ─ マキシモ・パークが正しく作り上げた〈ロック・バンドの2作目〉

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2007/04/19   17:00
更新
2007/04/19   18:00
テキスト
文/久保 憲司

『NME』『MELODY MARKER』『Rockin' on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、テクノの老舗〈ワープ〉レーベルが送り出した初のギター・バンドとしてその名を轟かせたマキシモ・パークの新作『Our Earthly Pleasures』について。

MAXIMO PARK『Our Earthly Pleasures』

  本国UKで50万枚を売り上げてプラチナ・ディスクに輝き、マーキュリー・プライズにもノミネートされたマキシモ・パークのデビュー・アルバム『A Certain Trigger』。マキシモ・パークはロバート・ロンゴのようなアートなジャケット・シリーズがオシャレだったな。彼らのセカンド・アルバム『Our Earthly Pleasures』も、ヴォーカルのポールの歌詞のような、けっして理解し合えない男と女の関係を表現したかのような現代アートな写真シリーズになりそうでかっこいいです。
 
  ポールが今作は「スマッシング・パンプキンズとスミスが融合した感じ」と言っていて、初めはどこがー??と思っていたんだけど、何回も聴いているとスミスというのが何となく見えてきて、なるほどなと思った。ぼくはジャムをハードにスピーディーにした感じだなと思っていたんだけど。英国を代表する詩人なアルバムということなのだろう。ポール、だてに〈時計仕掛けのオレンジ〉なポークパイ・ハットをかぶってないな。アルバムの冒頭にフィッツジェラルドの小説の一節が入っているのも、ただのカッコつけじゃない。

  フィッツジェラルドにスミスと、ポールの歌詞を読んでいると村上春樹な感じがしないでもないが、音の方は、彼らの定評あるワイルドで何が起こるか分からないようなエキサイティングなライブをスタジオに持ち込んだパワフルなサウンドで、この辺がスマッシング・パンプキンズ的というか。彼らにとってスマッシング・パンプキンズとはアメリカのバンドという意味なのだとぼくは思う。イギリスのバンドよりも音がへヴィでハードなサウンドだよ、ということをポールは言いたかったんだろうな。

  クラッシュの2枚目もこんな感じだった。方向性は変えず、アメリカのプロデューサーに頼んで1枚目をワイド・レンジにぶっとくした感じだった。昔のバンドはみんな2枚目をこんな感じで作っていた。2作目から音や方向性を変えようなんて誰も思わなかった。その意味でマキシモ・パークの『Our Earthly Pleasures』は正しい。

イギリスの評論家も悪いんだろうな。2作目くらいでどうのこうのと言い過ぎなんだと思う。イギリスのバンドはメディアが煽るので、1作目から売れてしまうから仕方がないのかもしれないけど。でもアメリカのバンドは今でも4枚目くらいでドカーンと売れたりする感じで、やはりこっちの方が健康的な気がする。

でもイギリスも昔は1作目と2作目は通なアルバムで、3作目でアメリカかイギリスで火がつくという感じだったんだけどな。

  より性急に変わらなければいけないと焦っているようなイギリスのシーンの中で、マキシモ・パークの立ち位置は昔のバンドっぽいかもしれない。インタビューでの「どうしたらよりハードに演奏出来るか、どうしたらよりお客さんを楽しませることが出来るか、毎日考えながらライブしてきた。バンドにとってどれだけライブが重要なのか、日々噛み締めながら活動している」なんていう往年の王道ロッカーのような発言も、デビューの時から、ポスト・パンク・シーンの中心にいるようで、どこか他のバンドと違った輝きを放っていたマキシモ・パークらしいなとぼくは思うのだ。さすが、テクノの名門・ワープが契約した初のロック・バンドだなと今作を聴いて改めて思った。