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第90回 ─ 20余年を経て〈公式〉に甦ったポップ・グループのブートレグ

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2007/06/28   18:00
テキスト
文/久保 憲司

『NME』『MELODY MARKER』『Rockin' on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、ポスト・パンク~ニュー・ウェイヴの最重要バンド、ポップ・グループの未発表デモ+ライブ音源を収録したオフィシャル・ブートレグ『Idealists In Distress From Bristol』について。

POP GROUP『Idealists In Distress From Bristol』

  ポップ・グループのセカンド・アルバムは『For How Much Longer Do We Tolerate Mass Murder?』。訳すなら〈俺たちは後どれくらい大量虐殺を許し続けるんだろう〉。もうこのフレーズだけでやられてましたね、子供の頃。デッド・ケネディーズの“Holiday In Cambodia”なんて幼稚っぽくてケッという感じでした。パンクの政治性はここまで来たかと思った。

  ポップ・グループは出だしから凄かった。ファースト・アルバム『Y』は本当だったかどうか分からないが、著作権フリーという触れ込みだったのだ。〈Kopyright Liberation Front(=著作権解放戦線)〉を掲げた究極のパンク、KLFのルーツと言える。コールドカットなどのコピー&ペースト世代の精神的支えだった。

キュアーなどは、顔写真は商業主義的だ、ということで顔を隠していたが(本当の理由はルックスが良くないということだったんだけど)、ポップ・グループの著作権フリーは、そんなことよりもはるかに衝撃的だったな。パンク的には「キター、萌えー」だった。あれから25年以上経っているが、ぼくはいまだに引きずっている。最終的にはみんな好きなようにやればいいじゃん、という思想だから。


クボケン氏秘蔵のブート・テープを公開! 向かって右が問題のポップ・グループ。左は23スキドゥー。

  で、今回出たCDを聴いてみてびっくり。ぼくが20年以上前から持っているブートのテープと完全に同じだったから。これ海賊盤ちゃうのかと思ったけど、オフィシャル・ブートレグなんですね。ぼくのテープは曲名クレジットが〈?〉になっているのがたくさんあるけど、今回のCDは収録曲全てにタイトルが付いているから、ちゃんとメンバーの監修の下でリリースされているんだろう。

でも、凄いよね。ぼくが持っているテープみたいなものがCDになるんだから。ちなみに、左に写っているのは23スキドゥーの海賊テープ。これもむちゃくちゃいいライブなんで、誰かCDにしないかな。

ショックなのは、このCDよりも、ぼくの持っているテープの方が音は良いんだよね。このテープがマスターみたいな感じで、オリジナルのマスター・テープは見つかっていないっぽい。やっとこのテープを捨てられるのかと思ったのに、残念。でもCDの音も、そんなに悪いわけではない。もう絶対見ることのできないポップ・グループのあの時代の音が、ライブの興奮が体験できるのをぼくは保証する。パンクが、ポジ・パンやゴスになっていく暗いあの時代の重さが堪能できる。今のバンドでは絶対この空気は味わえない。客も興奮して「アナーキー、アナーキー」と叫び狂っている。もし、この時代を完全な良い音で体験したければ、PILのライヴ盤『Paris au Printemps』かもしれないが、このCDにはあの時代の熱さみたいなものがあるんだ。

こんなカセット・テープを、ぼくが捨てられずにずっと持っていたというのは、そういうことなのだ。本当はこんなテープは捨て去るべきだったのかもしれないが、でもぼくはあの時代の興奮をいつか現代に甦らせたいと思っているんだ。このCDがいま世に出たのも、そういうことなんだと思う。もうないんだよ。こうして、テープとかCDとか写真はあるかもしれないけど、もうないんだよ。そんなことを考えると凄いと思う。

  ポップ・グループは解散後、ファンク(?)なピッグバッグ、ディスコ(?)なマキシマム・ジョイ、オーネット・コールマンなリップ・リグ&パニック、政治的なマーク・スチュアートに分裂した。ここに彼らの凄さがあると思う。そんな4つの偉大なバンドが、もともと一つだった、というかっこよさにあるんだと思う。ぼくたちの世代のヤードバーズみたいなもんか。ティアドロップ・エクスプローズ、ワー・ヒート、エコー&ザ・バニーメンが元々同じバンドだったという以上の衝撃。パンクという精神が、賢い若者たちに、とにかくバンドをしなければいけないんだ、という興奮を与えた奇跡の瞬間だったんだろうな。ぼくも子供の頃はこんな天才になりたいと思っていたのだ。

とにかくここには最高のファンクがある。久々に聴く元グラクソ・ベイビーズのギター、ダン・カトゥシスが弾く歪んだベースは最高にファンキーだよな、本当に。