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第33回 ─ リイシューという名の欲望

連載
IN THE SHADOW OF SOUL
公開
2008/08/14   00:00
更新
2008/08/14   18:22
ソース
『bounce』 301号(2008/7/25)
テキスト
文/JAM、出嶌 孝次

さまざまなソウル名盤をリイシューしていく〈SOUL MASTERPIECE〉始動……初回は80年代を彩ったブラコン作品があれこれ到着です!

 何かしらのカテゴリーや時代、レーベルを問わず、続々とリイシューの波が押し寄せる昨今のソウル/R&B事情。紙ジャケ化やリマスターが繰り返され、ド真ん中から重箱の隅までチェックが行き届いているロック界隈と比べればさほど量は多くないのかもしれませんが、ソウルの範疇においてもその対象はもはや50年代から90年代のものにまで及んでいるわけで……膨大な復刻タイトルがコアなリスナーを喜ばせると同時に、門外漢やビギナーを戸惑わせていることは想像に難くありません。一方ではヨーロッパの某レーベルのように権利関係をクリアしているのかどうか不明瞭なリイシュー(本連載では掲載しません)も相変わらず多く、聴き手が何を手に取ればよいのか判断しづらい状況はますます深まっていると言えますね。

 そんなわけで、いま聴くべき作品を選りすぐった復刻シリーズ〈SOUL MASTERPIECE〉がスタートすることになりました。初回は〈80'Sブラコン編〉と題して8月6日に10タイトルがリイシューされます。タワレコ他の合同企画でユニバーサル音源(モータウン、スタックス、カサブランカ、アイランド、MCA、A&M、デフ・ジャムなど……)を厳選していくということで、次回以降のプランもすでに進行中の様子。まずは下で紹介している〈80'Sブラコン編〉の10タイトルをお楽しみください。
(出嶌孝次)

LOVESMITH 『Lovesmith』 Motown/ユニバーサル(1981)
90年代の渋谷系名盤『Under My Wings』(72年)で知られるスミス・コネクション解散後にソングライターとして活躍していたマイケル・ラヴスミスが、改めて兄弟たちとリヴェンジを狙ったグループこそラヴスミスだ。この唯一のアルバムは、切なすぎるメロディーに溺れたい“I Fooled Ya”など甘酸っぱい名スロウが並んだ大傑作。爽快感に溢れたアップも文句のつけようがない。これが世界初CD化です!
(出嶌)

THE TEMPTATIONS 『Touch Me』 Motown/ユニバーサル(1985)
アリ・オリ・ウッドソンの加入と別掲の前作『Truly For You』のヒットで幾度目かの脱皮を図れたテンプスがリリースした、文句ナシの80'sクラシック。彼らの数ある作品中でももっともCD化が待望されていたアルバムだ。ルーサー・ヴァンドロス&マーカス・ミラーらをプロデューサーに迎え、名曲“Do You Really Love Your Baby”などでは前作に続いてフレッシュに躍動するテンプスを満喫できる。
(JAM)

GIORGE PETTUS 『Giorge Pettus』 MCA/ユニバーサル(1987)
カシーフやララを擁し、ブラコン時代に栄華を極めたハッシュ軍団の流れから登場したジョルジ・ペタス。全編がクワイエット・ストーム対応の都会的なナンバーで固められ、カシーフやルイル・サイラスJrらのひたすら上質なサウンド・コーディネートと、熱さを内包しつつもジェントルなジョルジのノドが堪能できる。気恥ずかしくなるほど劇的なララ製のミディアム“My Night For Love”がやはり最高だ。
(出嶌)

THE TEMPTATIONS 『Truly For You』 Motown/ユニバーサル(1984)
80年代の彼らを代表するヒットとなった“Treat Her Like A Lady”を筆頭に、アリ・オリ・ウッドソンの加入で取り戻した若々しさと活力が隅々まで行き渡った快作。アル・マッケイ&ラルフ・ジョンソンという元EW&F組のサウンドメイクも溌溂としたムードに加勢している。温かみに満ちたハーモニーが優しい“I'll Keep My Light In My Window”は、この年に逝去したマーヴィン・ゲイへの手向けか。
(出嶌)

MILLIE SCOTT 『Love Me Right』 4th & B'way/ユニバーサル(1986)
フレディ・ジャクソンのブレイクを受けた80年代半ばのソウル・シーンは、もっともアクティヴなマーケットの年齢層がある程度高かったこともあって、実力的にも申し分なく芳醇な歌を歌えるキャリア組のメジャー・デビューが続いたという特徴があった。クワイエット・エレガンスという名門出身のミリー・スコットはそれを象徴する一人で、本作にも80's最高級のソウル・ワールドが広がる。
(JAM)

BY ALL MEANS 『By All Means』 Island/ユニバーサル(1988)
彼らの登場が80年代のブラック・ミュージックをより実り多いものへと導いてくれたことも何をいまさら……の話か。制作の総指揮を執るスタン・シェパードがめざしたのは、究極のモダニズムとソウルに根差したスタンダード・アートとの融合であり、〈レトロ・ヌーヴォー〉と言い表されるようになるこのスタイルは、やがて80年代最高のサウンド・レシピとして記憶されることとなった。まさしく名盤。
(JAM)

PHYLLIS ST. JAMES 『Ain't No Turning Back』 Motown/ユニバーサル(1984)
ウェストコーストの音楽シーンでは裏方クレジットの常連だった女性で、そのキャリアと曲作りの才も買われてソロ・デビューを手にした才女である。日本では“Candlelight Afternoon”がリリース当時から80'sダンス・クラシックとしてカルトな人気を誇ってきたが、同曲が突出しすぎているわけではなく、アルバム全体のクォリティーは相当に高い。本シリーズの裏目玉となる初CD化。
(JAM)

CHUCK STANLEY 『The Finer Things In Life』 Def Jam/ユニバーサル(1987)
オラン“ジュース”ジョーンズらと共に初期デフ・ジャムのR&B部門を盛り上げたチャック・スタンレー。この唯一のアルバムはラッセル・シモンズ&ヴィンセント・ベルの手によるもので、当時のレーベルを象徴する簡素な打ち込みと、地声でもファルセットでも濃密な歌声とのコントラストが絶妙! コンティネンタル・フォー“Day By Day”のスウィートなカヴァーにも溶ける。
(出嶌)

GERALD ALSTON 『Gerald Alston』 Motown/ユニバーサル(1988)
マンハッタンズのリード・シンガーからソロになった彼。このタイミングでリリース元のモータウンがアルストンにあてがったプロデューサーは、バイ・オール・ミーンズの仕掛人であるスタン・シェパードとメンバーのジミー・ヴァーナーだった。アルストンの既得イメージはそのままに、鮮やかなほど時代に順応するアルバム作りができたのはこの顔合わせがあったからこそ。88年屈指の名盤である。
(JAM)

MAGIC LADY 『Magic Lady』 Motown/ユニバーサル(1988)
82年にA&Mからデビューした女性セルフ・コンテインド・バンドが、モータウンへ移籍してリリースした2作目。メンバーのリンダ・ストークスはかのマイケル・ストークスの奥方で、アルバムも彼が全編をプロデュースしている。ニュー・ジャック・スウィングの誕生前夜にミネアポリス・ファンクやアタラ・ゼイン・ジャイルズらのデジタル・ファンクに真っ向から挑んだ、80'sサウンド・アートの総合見本市的な一枚。
(JAM)

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