――カヴァーしていたというセロニアス・モンクといえば、メロディーやハーモニーの感覚がものすごく独創的ですよね。その魅力はラナ&フリップの作品にも見出せる要素だと思うんです。
フリップ ありがとう。セロニアス・モンクと同じような音楽ではないと思うけど、彼の音楽のスタイルはすごく参考にしている。彼の音楽は小節ごとにメロディー・ラインがコロコロと変わったりして、その目まぐるしさや緩急に聴き手はびっくりさせられるよね。そういうところに僕はすごく魅力を感じている。だから自分たちの音楽も、次に何が起こるかがまったくわからないようなものにしている。そうやって聴き手にサプライズを与えたいんだ。
佐藤 ラナのヴォーカルは、すごい自由自在に飛び回りますよね。魚が空を泳いでるみたいに感じる(笑)。メロディーはラナが書いているんですか?
ラナ 私が自分で作るのは、比較的シンプルなメロディーなんだけど、フリップが、すごく奇妙なメロディーを書いてくるの。それを歌うのはとても大変(笑)!
フリップ 元々、歌うことを想定して書いたメロディーじゃないんだよ。それを、試しにラナに歌ってもらったらすごく良かった。そうやってできあがった曲なんだ。だからすごくフリーキーで実験的な歌に聴こえるんだろうね。
――難しすぎて歌えない、みたいなことにはならないですか?
ラナ 実際、かなり練習しないと歌えないわ。でも、ヴォーカリストとしては挑戦しがいのあるものだし、努力すれば大丈夫。
佐藤 ……あの、すごい基本的な質問なんですけど、ラナは元々何をやっていたんですか?
ラナ アクトレス!
佐藤 女優!? クラシックの歌手ではなかったんですか?
ラナ 元々は女優だったんだけど、声楽の勉強もしていたの。でも、ジャズの方が自分のクリエイティヴィティーを出せるって気付いて、そっちに転向していったの。
佐藤 そうだったんですかあ……。びっくりですね(笑)。
――くるりもコードやハーモニーに関しては、かなり複雑なことをやってますよね。
佐藤 そうですね。そういう志向はデビューの頃からあったと思うんですけど、特に『ワルツを踊れ』の段階から、ギターでコードを弾いて作るんじゃなくて、ひとつひとつのメロディーが重なり合うことで、コードが形成されていくという作り方を試みたんです。ある楽器がメロディーを取って、別の何かがカウンターになって、また別の何かが裏メロになって、ハーモニーが出来上がる……みたいな。
――ノイズ・マッカートニーは、もともと色んな音楽をリリースされてましたけど、ラナ&フリップはこれまでの作品ともまったく違う音楽ですよね。またレーベルの幅が一段と広がったんじゃないかなと思うんですが。
佐藤 いままでのリリースは日本とアメリカのものがほとんどで、今年の春に出したコロラマが、初めてイギリスのものだったんですよ。で、いまの僕らの興味は、もっと様々な国のトラディショナルな音楽なんかに向いてるんです。だからアメリカやイギリス以外の国の音楽を出したいっていうのを去年くらいからずっと思っていて。それがラナ&フリップで実現できたという感じですね。
――ラナ&フリップのお二人は日本から作品がリリースされることについてどう思われましたか?
ラナ まったく思いもよらないことだったから、びっくりしたし……。
フリップ 光栄だよ。それにぼくらの音楽は、日本のリスナーの方々と、とても相性が良いんじゃないかと感じているんだ。
ラナ ヨーロッパのお客さんよりも、日本のお客さんの方が、新しい音楽に対してオープンに接してくれるなって。
佐藤 日本というか、京都音博のお客さんが、なのかもしれないですけどね。何が目当てっていうよりも、知らない音楽を楽しみに来てくれてる方は多いんで、そういう風に感じたのかもしれない。
――今回の作品はジャズという枠にとどまらない広がりがありますよね。それは意識的だったんでしょうか?
フリップ 特に意図したわけではないけど、色んなタイプの音を融合させていくことが、音楽の未来を切り開いていくと思ってるんだ。それに、様々な音楽を提示して、その広がりを聴き手にも受け入れて欲しい。ビートルズみたいな時代を経ても色あせない音楽というのは、そうやって生まれて来るものだと思うし、僕らが目指すのもそこなんだよ。
ラナ この作品を通して、色んな音楽に対する偏見を取り払っていけたらいいなと思うの。
佐藤 よく、テクノ耳とかジャズ耳なんて言い方もしますけど、別のジャンルの音楽をやられてる方に興味を持っていただけることって、僕らにとってもほんまに嬉しいんですよ。ミュージシャン同士のジャンルの垣根を超えた関係って本当に素晴らしいと思うんですけど、ラナ&フリップのアルバムは、その中から生み出される最良の音楽だと思いました。
――今回の作品について、岸田繁さんは〈エクスペリメンタル〉という形容をなさってますよね。ジャズ・クインテットという、クラシカルな編成から生まれる音楽を〈実験的〉と賞しているのがすごく面白いなあと思ったんです。
佐藤 焼き直しムーヴメントみたいのもあるじゃないですか。ラナ&フリップはそうじゃなくて、自分たちでいちから作っていってる人たちなんですよね。だから意識しなくてもエクスペリメンタルなものが生まれてくるんじゃないかと思うんです。色んな音楽が出尽くしているなかで、新しい音楽を作っていこうとしたら、何かと何かを融合させたり、これまでは駄目とされていた組み合わせを試したりっていう実験が必要ですよね。それはバンドでも同じことで。
――それはまさに、くるりがやられてることでもありますよね。
佐藤 そうですね。それで新しい良い作品を作った者勝ちなんじゃないかなと。
【NMRハミ出し情報】
11月19日に、世武裕子“おうちはどこ?”をタワーレコード限定でリリースすることが決定しました! 前回、佐藤社長が「あっと驚くリーサル・ミュージック・ウェポン」と触れていた天才作曲家です。くるり二人に加えて、何とアカデミー賞受賞作品「イングリッシュ・ペイシェント」のスコアを手掛けたことでも有名な作曲家ガブリエル・ヤエル氏がコメントを寄せてくれました! 次回、詳しくお伝えします!
彼女は天才的で、とても興味深く、そして…とにかくその才能は並外れている!
何より大きな興味を持って、この音楽を聴いて欲しい。
― ガブリエル・ヤレド/作曲家(映画「イングリッシュ・ペイシェント」など)
天才いました。
琵琶湖が生んだ瑞々しい才能、パリ経由で鮮烈デビュー!! ― 岸田繁/くるり
飛び抜けた感性で無垢な音を創造する音楽家が現れた。
彼女の音はとても優雅でやさしい。 ― 佐藤征史/くるり
世武裕子
おうちはどこ?
11月19日 TOWER RECORDS限定発売
NMR-007|1,900円(税込)
◆今月のくるりの近況
1. くるりグッズ通販、秋の大感謝祭開催!
今年の夏のくるりを象徴するツアー・フェス・音博グッズが多数のリクエストにお応えして全アイテム通販決定! 全ライヴ・イヴェント無事終了を記念してWポイント・セール開始!!
■期間:10月10日(金)~19日(日)
■対象:2008年ツアー・フェス・音博グッズ全アイテム
■内容:全アイテムWポイント、5000円以上お買い上げでレア・グッズをプレゼント
詳細は10月10日(金)以降にくるり on WEBをご確認ください。
2. 〈COUNTDOWN JAPAN 08/09〉出演決定!
■12月28日(日)幕張メッセ
■12月29日(月)インテックス大阪
3. “さよならリグレット~京都音楽博覧会2008記念盤~”好評発売中!
VICL- 36455 税込定価¥1,260 (2008年内完全限定生産)
1. さよならリグレット
2. 京都の大学生
3. pray
〈ボーナストラック〉
4. ばらの花 feat.小田和正 from京都音楽博覧会2007
▼NOISE McCARTNEY RECORDS、くるり関連作品を紹介