ロックに年の差はあるのだろうか? 都内某所の居酒屋で夜ごと繰り広げられる〈ロック世代間論争〉を実録してみたぞ!
僕は阿智本悟。アークティック・モンキーズのようにクールでソリッドなロックンロール・ライフを夢見て上京した、社会人1年目のフレッシュマンさ。思い描いていた生活とはかけ離れた日々を送っているけど、こだわりのスキニー&ルーズなファッションだけは絶対に崩さない! そんな僕も友達がひとりもできない寂しさには抗えず、家出同然で飛び出した（嘘）実家にこの年末は帰省してしまった。何事もなかったように受け入れてくれた僕の家族。その優しさと雑煮の美味しさに後ろ髪を引かれながら東京に戻ってはきたけれど、会社はまだ始まらないし、正月って意外とやることがないんだよね。仕方ない、ボンゾさんのところに新年の挨拶にでも行くか。きっと僕に会えなくて寂しがっているだろうし――そんな思いで〈居酒屋れいら〉の引き戸を開けたのだが、そこには新年早々号泣しているオッサンがいたのである!
ボンゾ「オロロ～ン、オロロ～ン（涙）!」
うわぁ、ボンゾさんが厄介な感じだ。年始から非常に面倒臭いけど、シカトしてたらいつまでたっても梅割りが飲めないしな～。よし、さり気なく話しかけるか。
阿智本「明けましておめでとう! ここ数日かなり寒いけど、腰とか痛くなってない? 歳を取ると関節にくるってよく言うし。ウチの母親はすごい腰痛持ちでさ。だから〈温泉旅行がいちばんの贅沢よ～。若いうちはわかんないと思うけど〉なんて言うんだけど、僕にだって温泉の良さぐらいわかるよ。でも温泉と旅行がセットだと、せっかく温泉で疲れが取れても、観光とか移動とかでまた疲れちゃうじゃない? それって物凄く無駄な感じがするんだよね。僕は布団の中でゴロゴロしてるのがいちばん良い休日の過ごし方だと思うんだよ。そうじゃない? ところで、なんで泣いてるの?」
ボンゾ「グダグダうるせえ! テメエの休日なんて知るか! それよりも新年早々に男泣きしている状況を早く訊いてこいよ!」
阿智本「怒鳴られるのが面倒だったから、さり気なく振ったのに! で、どうしたの?」
白髪のオールバックに口髭、レイバンのサングラス。年が明けても何ひとつ変わらない、いつものボンゾさんだ。いまは泣いた子供のようにエグエグしてるけど。
ボンゾ「さっきまで娘が来てたんだ。で、〈買ってきたスミスのCDを聴きたい〉って言うから、〈どうせスミスなら俺はハリケーン・スミス（再発先生奇談を参照）が聴きてえ〉って、無理やりCDを流しはじめんだよ。そしたら思わぬ口論になっちまって」
阿智本「く、くだらなすぎる。しかもボンゾさんが一方的に悪いよ」
ボンゾ「ナニッ!?と言いたいところだが、確かに冷静になってみれば、あきらかに俺が悪い。それに、つい興奮しすぎて〈俺もハリケーン・スミスみたいに遅咲きの歌手デビューを飾りたい!〉なんて口走っちゃったもんだから、〈お父さんは何もわかってない! 勝手にすればいいのよ!〉と一喝して、そんでアイツは店を出て行っちまったんだ……うぅ」
〈もしかして奥さんが出て行った時もそんな感じだったの?〉と訊こうとしたけど、殴られそうだったから止めといた。
阿智本「僕にはボンゾさんに歌手デビュー願望があったことのほうがショックだよ。それはそうとスミスはね、僕の大好きなUKバンドにも多大な影響を与えた人たちだよ! 偏見を持たずに聴いてみれば?」
ボンゾ「お前に言われたくねえよ! そのスミスなら、ヴォーカルの野郎が若い頃のチョーさん（注：長嶋茂雄）にクリソツだから覚えているよ。これは娘が忘れていったCDだけど、最近リマスターされたベスト盤らしい。しかしリマスターって、コイツら最近のバンドじゃなかったっけか?」
渋い顔をしながらも、ボンゾさんはスミスをかけてくれた。
阿智本「最近って言ったって20年前だけどね。でも、やっぱり“Hand In Glove”は名曲すぎる! しかもコレ、レア音源も満載じゃん。しかし娘さんがスミス好きなんて意外。 僕はてっきりフランク・ザッパとかを愛聴している、ヤバイ人かと思ってたよ」
ボンゾ「そういえば、アイツはザッパが大嫌いだって言ってたな～。オイ、これ聴いたらさっさと帰れよ! こんな軟弱でヒョロヒョロしたロック、聴きたくねえからよ!」
阿智本「何だよ、自分だってさっきまで大泣きしてたクセに」
ボンゾ「うるせえ! 早く出てかねえと門松でブン殴るぞ!!」
母さん、2009年もいつもどおりに始まっちゃいました。
