79年に誕生した日本を代表するロボット・アニメであり、いまでも現役でさまざまな派生作品を生み出し続けている「機動戦士ガンダム(以下、ガンダム)」。現在もアニメーションはもとより、プラモデル、書籍、アトラクション、アパレルなどなどを展開し、単なるアニメ作品の範疇を超えた〈ガンダム文化〉と呼ばれるほど世界中で受容され、老若男女を問わず愛されてきた。また音楽の面においてもさまざまな影響を与えてきた作品なのだ。
ガンダムはそれまでのロボット・アニメとは違い、人智を超えたあり得ないパワーを発揮するロボットの勧善懲悪的なドラマを描くのではなく、人間同士が殺し合うために開発した兵器=モビル・スーツを武器に戦争を繰り広げるSF群像劇だった。つまり、始めから子供だけが対象ではなく、青年以上の年齢層をターゲットとして作られた作品でもあったのだ。ガンダムが社会現象化したきっかけである劇場版「機動戦士ガンダム」では、谷村新司が作詞/作曲を手掛け、やしきたかじんが歌った“砂の十字架”が主題歌に起用されて大ヒット。続く「劇場版 機動戦士ガンダムII 哀・戦士編」で井上大輔が歌った“哀・戦士”も好セールスを記録している。両曲共に歌詞のなかに作品名は登場せず、従来のアニメ・ソングらしくないメッセージ性を内包していた。
70年代のアニソンは、スポンサーが製造するおもちゃを売るためのものであり、よって曲中では商品名である作品のタイトルや、おもちゃのギミックである必殺技をやたらと連呼していた。しかし80年代、新人シンガーを売り出す側面をアニソンが帯びはじめた〈その時〉、アニメの作品名や必殺技を叫ばないテーマ・ソングが出てくるようになったのである。その方向性はガンダムの続編にあたる「機動戦士Zガンダム」(85年スタート)で確立された。当時新人アイドルだった森口博子による後期主題歌“水の星へ愛を込めて”はアメリカのポップ・シンガーであるニール・セダカが作曲を手掛け、スマッシュ・ヒットを記録(鮎川麻耶が歌った前期主題歌 “Z・刻を越えて”はセダカの持ち曲に日本語詞を付けたものだった)。さらに、森口はその後「ガンダムF91」でも“ETERNAL WIND”を歌い、紅白歌合戦への出場を果たしている。さらに、当時人気絶頂だったTM NETWORKは88年に劇場版「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」のテーマ・ソングを担当。その“BEYOND THE TIME ~メビウスの宇宙を越えて~”はいまもガンダム・ファンから愛されている曲だ。彼らの起用は、アニソンに人気アーティストが続々と起用されている現在の布石にもなっている。ちなみに、ガンダム・シリーズのほとんどの主題歌は『GUNDAM SONGS 145』(gunboy)にまとめられているので、そちらでぜひその歴史を辿ってほしい。ガンダムを透かせば、アニメ・ソング史が垣間見えるのだ。
ガンダムのその時々
やしきたかじん “砂の十字架” スターチャイルド(1981)
谷村新司が作詞/作曲を手掛け、たかじんが歌った劇場版第1作の主題歌。たかじん側から詞の件でクレームが入り、直前にリリースが延期されたいわく付きの楽曲だが、壮大な曲調と謎の言葉〈ライリーライリー〉のせいで妙に印象深い曲となった。谷村は後に〈∀ガンダム〉でもペンを取っている。
VARIOUS ARTISTS 『「機動戦士ガンダム~哀戦士」BGM集』 スターチャイルド
主題歌“哀・戦士”は元ジャッキー吉川とブルーコメッツの井上大輔が作曲と歌を担当。劇中ではジャブローの激闘をバックに挿し込まれ、その演出は当時かなり斬新だった。作詞の井荻麟とは監督の富野喜幸(現・富野由悠季)のこと。井上とは大学からの友人だったという。
森口博子 『SINGLE BEST COLLECTION』 キング
ニール・セダカが作曲、そして歌謡曲の大家・馬飼野康二の編曲で生まれた“水の星へ愛をこめて”が彼女のデビュー曲である。このセダカ印の正当派/清純派ポップソングは清涼感たっぷりで、初々しい歌唱も魅力的だ。もっとも、彼女が本当の意味で成功を収めたのは〈元祖バラドル〉としてだけど。
TM NETWORK 『TM NETWORK SINGLES 1』 ソニー
劇場版としては最高傑作との呼び声も高い〈逆襲のシャア〉だが、主題歌“BEYOND THE TIME ~メビウスの宇宙を越えて~”がラストの感動をより鮮烈なものにしているのも事実である。小室みつ子が手掛けた歌詞には作品への深いオマージュが感じられ、コア・ファンからの支持も厚い。