もう一人のバッグ・レディーなレディーバグがついに開花……どころの騒ぎじゃないよ!
エリカ・バドゥ“Bag Lady”のバック・コーラスをエンダンビやジーノ・ヤングらと共に務め、自身のデビュー作『Here Me』やその改装盤『Brackstar』を発表した2000年代初頭あたりから、オーガニックなR&Bシーンに属するひとりとして注目を集めてきたヤーザラーだが……このハジけた新作『The Ballad Of Purple Saint James』を聴いて、彼女の〈ネオ・ソウル〉なイメージを覆される人も多いのでは。ただ、思い起こしてみれば、確かに前述の作品群からも尖ったオルタナティヴ志向やポップさは聴き取れたし、その後のフォーリン・エクスチェンジ(以下FE)やリトル・ブラザーの諸作への客演で培ったセンスも大きいのだろう。
そのFE一派が中心となって制作を手掛け、フル・アルバムとしては7年ぶりとなる今回の内容だが、80年代風のハッチャケPVも楽しい“Why Dontcha Call Me No More”からして相当にカラフル。続くスムースなシンセ・ファンク“Cry Over You”やプリンス風味の“Change Your Mind”などにも80sモードを散りばめつつ、シリータ“Come Back As A Flower”(スティーヴィー・ワンダー作)のたおやかなカヴァーや、サザン調バラード“Last To Leave”では自身のソウルの根っこも示す。浮遊感のあるメロウなトラック上でダリエン・ブロッキントンとデュエットする“All My Days”はいかにもFE流儀で、ヤーザラーのクールな振る舞いが麗しい。
このように多彩な楽曲が並ぶ内容は近年屈指のもので、ヴァラエティーに富みつつも我流を通すレディー・ソウルという意味では、同じく2000年代初頭からキャリアを構築して今年傑作を完成させたジャネル・モネイあたりと並べても引けを取らないだろう。奔放に壮大にぶっ飛んだあちらに対して、こちらはよりソウル/R&Bに根差しつつスタイリッシュさも漂う、といったところか。両方とも、一枚皮をめくれば、内側にこもった生々しいブラックネスが紫煙と共に薫るのは同じだが。
▼関連盤を紹介。
左から、エリカ・バドゥの2000年作『Mama's Gun』(Motown)、フォーリン・エクスチェンジの2004年作『Connected』(BBE)、リトル・ブラザーの2010年作『Leftback』(Hall Of Justus)