NY在住のフォト・ジャーナリストが活写する夏の風物詩
NYに関する案内書はそれこそ山ほど出版されている。それは、音楽という分野に限定しても決して少なくないだろう。だが、ことコンサート、しかも野外コンサートということになると、それを扱った本は皆無ではないか。NY在住の音楽カメラマン/ジャーナリストである常磐武彦さんによる本書はその表題にあるように、これまでなかった切り口で、NYにある音楽や文化や人々の営みを紹介しようとするものだ。考えてみれば、NYの夏の大きな風物詩的なものが野外コンサートだったりするわけで、これはあってしかるべき本と言えるかもしれない。
マンハッタンやブルックリンで毎年行われる数々の野外フェスティヴァルやコンサート、はてはニューヨーカーのリゾート地で長年開かれているニューポート・ジャズ祭まで。様々な写真とともに、いろんな積み重ねや表情を持つ野外の公演が、ここにはテンポ良く紹介されている。シューン・クティ、ソウライブ、マーク・リーボウ、アラン・トゥーサン、カリプソ・ローズ、B.B.キング、カサンドラ・ウィルソン、アリサ・フランクリン、NYサルサ勢、そしてニューヨーク・フィルまで……。出てくる人の音楽タイプは様々。が、それこそがNYたる所以なのだと皮膚感覚で納得させちゃうような豊富なマテリアルのもと、もう一つのNYが活写される。
そして、それを可能にしているのは、音楽&写真好きがこうじてすでに20年以上もNYに住んでいる筆者(彼は、過去に『ジャズでめぐるニューヨーク』という本も上程している)の山のような経験と見聞と交遊だろう。そういう意味では、これは常磐さんの、音楽を核に置くNY生活の蓄積を鮮やかに括ったものとも言えるはず。書き遅れたが、文章とほぼ同じスペースをさく写真はカラー。やはりそれらは一瞥しただけでも、興味深く、心弾ませる。それを見ているだけでも、もう一つのNYの確かな表情や襞に触れることが出来るのではないだろうか。