次の10年のひとつの基準になるか
元祖オルタナ・ピアノトリオ、ザ・バッド・プラスの通算7枚目の新作は、トリオ結成10周年記念盤ということで初の全曲オリジナルでの新録となりました。1970年代生まれにして、アメリカ中西部の片田舎で80年代MTVロックと90年代グランジロックに囲まれて育ち、ジョン・コルトレーンやキース・ジャレットを聴いて「ジャズもカッコええなぁ~」とスクスクと音楽家への道を志した3人は、シーンの荒波に飲み込まれることなく、我が道を切り開いてきました。そろそろアラフォーに差し掛かろうという今日この頃、彼らはこれまでの自分たちを繰り返すのではなく、日々学習し進化してきた成果を新作に見事に結実させました。
ザ・バッド・プラスのピアニスト、イーサン・アイヴァーソンの営むインターネットの英語版音楽ブログ、〈DO THE MATH〉 は、僕の知る限り、ジャズとその周辺音楽の最良の音楽情報サイトです。キース・ジャレットからウィントン・マルサリスまで、現存する数少ないジャズレジェンド達に、彼自身が赤裸々に独自の視点でインタビューした記事の数々、今は亡きジャズの偉人達や彼らと同世代の才人達の特集記事、さらにはロックから現代音楽まで様々な21世紀音楽の特集記事など、彼の音楽への普遍の探究心に満ちあふれた日常が、そこには刻まれています。
今作は、彼らと縁の深いミネソタ州にて、閑静なログハウスに録音機材を持ち込み、メンバー全員同じ部屋で一発録りしたそうです。さすがに10年も活動をともにしているだけあって、まさしく三位一体、変貌自在なアンサンブルを聴かせてくれます。冒頭のフリージャズ曲にいきなり強烈なアッパーカットを喰らいますが、御安心ください。2曲目からバッドプラス節満載です。全10曲、様々な表情を見せるオリジナル曲は、猥雑なまでの雑食ぶり。2010年という節目にピアノジャズの新たなマイルストーンが打ち立てられたことに興奮を隠さずにはいられません。