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anbb『mimikry』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2010/11/18   20:40
更新
2010/11/18   20:59
ソース
intoxicate vol.88 (2010年10月10日発行)
テキスト
text : 久保正樹

alba notoと、blixa bargeldによる新ユニットによる衝撃の1stアルバム!

80年代、荒涼としたノイズ風景の中で暴力的なメタル・パーカッションと退廃的な絶叫で時代の寵児となったアインシュテュルツェンデ・ノイバウテン。そのリーダーでありボーカルのブリクサ・バーゲルト。そして90年代、突き差すようなパルスノイズで電子音楽の未来を切り拓いたアルヴァ・ノトことカールステン・ニコライ。かたや崩壊寸前の、かたや完璧な構造をもつ〈建築的〉な騒音美で、また、かたや言語の向こう側、かたや音の向こう側を追求する〈探求者〉として衝撃を与え続ける2人が、いよいよanbb名義でアルバムを発表する。

ざわざわと増殖するブリクサの金切り声から始まり、その起伏、息づかいに合わせ、さまざまなトーンで音を差し込むカールステン。それは、重く冷たいもの、という小生の安易な予想を見事に裏切る軽妙なポップ感すら漂うものだ。そこに理性を追放した記号のような言葉(歌詞カードはまるでダダ作品!)が、闇からどろりと落ちてくるのだが、〈フォトショップ使えよ〉〈あらゆる穴からモーツァルトの屁〉なんて可笑しな言葉も連続する。そんなユーモアもさることながら、ハリー・ニルソンの《One》や、20年代のアパラチアン・フォークを甘美な世界にどっぷり浸し、見事な黒に染め上げてしまう様にも感嘆。さらにもう一つの注目は、映画『欲望』の出演で知られる60年代のアイコン、ヴェルーシュカの参加だ。美しい違和感を放つポートレートでアート・ワークに登場し、《Katze》ではブリクサと一緒に、なんと猫語のデュエットまで披露しているではないか!

ドイツが生んだ強烈すぎる個性のぶつかり合いも聴きどころだが、それを一旦忘却し、未知なるものへの〈ミミクリー=擬態〉に成功した超一流のやりとり。欺くための擬態ではなく、進化のための擬態であり、これはラスター・ノートン史上もっともセンセーショナルで情感ある作品であると、つぶやくのではなく、断言しよう。