続々とリイシューされる幻の名盤や秘宝CDの数々──それらが織り成す迷宮世界をご案内しよう!
私は内山田百聞。売れない三文作家であるが、道楽のリイシューCD収集にばかり興じているゆえ、周りからは〈再発先生〉などと呼ばれている。静養先の小さな温泉が気に入った私は、滞留を続けながら小説を執筆していた。
私は先日見たカエルの家(こちらを参照)が気になって仕方がなく、ある日ふたたびあの家を訪れるべく雑木林に分け入ってみた。携帯プレイヤーにはスティーヴ・アライモの『Starring Steve Alaimo』(ABC/Henry Stone/ヴィヴィド)を忍ばせる。65年作にして全編スカで統一するという、白人歌手としては先進的な内容で、再評価著しい一枚だ。軽快なビートに乗せて調子良く進んでいったが、カエルの家は一向に現れない。やや不安になりはじめた頃、黒い門のある立派な屋敷に行き当たった。恐る恐る門を潜ると、庭には季節外れの花々が咲き乱れ、鶏たちが遊んでいる。何かに魅かれるように玄関から上がってみると、人気のない大きな広間にお膳が置かれ、そこにお椀や小鉢と共になぜか3枚のCDが並べてあった。
元スリー・ドッグ・ナイトのコリー・ウェルズによる78年のソロ作『Touch Me』(A&M/ユニバーサル)は初CD化だ。デヴィッド・フォスターやスティーヴ・ルカサーら豪華な顔ぶれがバックを固めた、AOR好きにはたまらない一枚である。
そして、生誕70年を記念してオリジナル・ミックスの最新リマスターで新たな息吹が吹き込まれたジョン・レノンのソロ・アルバム8枚のうち、71年の2作目『Imagine』(Apple/EMI/EMI Music Japan)が置かれている。想像してごらん、か……。私はハッとした。もしやこの屋敷は〈マヨヒガ〉ではないか? 山中にある不思議な家の伝説で、その家の物を持ち帰ると幸運が訪れるという話を本で読んだことがある。
まさかな……と自分の想像に苦笑しながら最後のCDを見る。おお、デヴィッド・ボウイ『Station To Station Special Edition』(RCA/EMI/EMI Music Japan)だ。高音質で蘇った76年作に大充実のステージとの誉れ高い同年の貴重なライヴ音源を2枚組で加えた、ファン垂涎の3CD仕様だ。これは欲しい! が、流石に泥棒はできない。私は抜き足で屋敷を後にした。
数日後、小川の端を散歩していると川上から赤いお椀がドンブラ流れてくるのが見えた。拾い上げてみるとお椀の中にはなぜかデイヴ・メイソンの73年作『Dave Mason Is Alive!』(Blue Thumb/Geffen/ユニバーサル)が入っていた。長くCD化が望まれていた一枚で、トラフィック時代の名曲“Feelin' Alright”を演っているのにもニンマリしてしまう。……あっ! これはもしかして〈マヨヒガ〉からの贈り物か? 私は何だか妙にほっこりした気分になっていた。