音楽に合わせて踊る。ただ、それだけのことなのに、どうしてこんなに楽しいんだろうか……。12月8日に初の音源となるEP『Hype - E.P.+REMIXES』をリリースした4人組ロック・バンド、Heavenstamp。翌9日に渋谷Gladでリリース・パーティーを開催した彼らは、全身黒で統一された衣装で登場。全15曲をぼぼノンストップでシャウトし、新しくて刺激的な音楽を求めて足を運んだ観客に、祭りにも宗教にも似て非なる昂揚感を与えてくれた。客電が点灯し、BGMが流れはじめてもなお、アンコールの拍手は鳴り止まなかった。彼らがふたたびステージに現れることはなかったが、ライヴの充実ぶりを表すシーンだったように思う。
彼らの音楽をひと言で言い表すのは難しい。前述のEPに収録された“Wake Up”でギターのTomoya.Sが繰り出す高音のトリルは、ダンス・ミュージックを聴き慣れた耳には馴染みが薄いだろうし、続く“Hype”でのリズム隊によるシンプルだけど重量感のある低音グルーヴは、ロック・リスナーには新鮮に響くだろう。Sally#Cinnamonによる激しくもぶっ太いギター・リフから始まった“Hype”では、エッジーな冒頭から一転、サビに突入すると美しいメロディーが劇的に飛翔。そこに、無垢なハートを剥き出しにする危うい魅力を持った彼女の、叫びにも似たパンキッシュな歌声が重なると、ジャンルという既存の概念がなし崩しになる先鋭的なサウンドが生まれるのだ。
さらに、“I don’t wanna die”のようにノイジーだけどチャーミングなポップ・ロックもあれば、ヘヴィーなギター・リフにラップ調で歌詞を乗せた“Stop”もあるし、エレキ・シタールのようなギターがレイドバック感を引き起こすバラード“Answer”もある。パンク、シューゲイザー、ディスコに、ノイズ・ロックからサイケデリアまで……つまり、彼らは実にさまざまな音楽の要素をダンサブルなポップスに昇華することで新たなフェーズの開拓をめざしているバンドであり、次に何が飛び出してくるかわからないドキドキ感をもたらしてくれるバンドなのである。
また、彼らはこの日、ブロック・パーティのラッセル・リサックといっしょに作ったという新曲“Pops”を初披露した。美メロとラップが交互に顔を出す“Morning Glow”から一瞬の静寂を経て演奏された“Pops”は、よりストレートに、それまで以上に美しい旋律と身体を心地よく揺さぶる感覚を追求したポップなギター・ロックとなっていた。
EPのリミックスにも参加したラッセルとHeavenstampの共通点とはなんだろうか? それは、先入観なしに誰もがダイレクトに楽しめる、新しいフィジカルなグルーヴを追求する姿勢にあるのではないかと思う。聞けば、彼らのバンド名は〈天国(Hevaen)での足踏みの音(Stamp)=天国のダンス・ミュージック〉という意味だそうだ。頭で考えるよりも先に身体で聴いてしまうサウンド・プロポーション。混沌のなかに美しいハーモニーと初期衝動がくっきりと存在する踊れる音楽。ギターのフィードバック・ノイズによって構築される独特の世界観。リズム・アンサンブルの多面性の輝きと、轟音ギターのなかを浮遊するシンフォニックなハーモニー。そして、ハードなカッティングとカリスマ性を纏った硬派な歌声……。
ネットで情報はいくらでも得られるが、世の中には自分で試してみないとわからないこともあることを痛感させられた。彼らのライヴは、言うまでもなくひとつの、感動的な体験であった。聴き手の心を驚かせ、身体を踊らせることに一点の迷いもない彼らが鳴らすビートはいま、筆者にもっとも新しさと身体性を感じさせてくれる音楽となっている。
Heavenstamp “Hype – E.P.+REMIXES”Release Party @ 渋谷 Glad 2010年12月9日(木) セットリスト01. My doll
02. Wake up
03. Hype
04. I don't wanna die
05. Stop!
06. Loveless
07. Nevermind
08. Dreaming about you
09. Answer
10. Magic
11. Stamp your feet
12. Water fall
13. Morning glow
14. Pops
15. Stand by you