女は恋に生きる動物である
女は恋に生きる動物である。TVドラマに圧されているせいか、最近の恋愛映画は、恋愛そのものにカタルシスの重点を置いているものが多い様な気がする。仕掛けは、ダイナミックなものであっても、コンビニエントに解決してくれる、陳腐な恋愛ゲームを描くに留まっている。それは、我々現代人の生活や日常が均一化されてしまい、等身大のロマンスの方が万人に共感出来ると思っているからかも知れない。しかし恋愛映画がお家芸である、フランス映画は、現在もなお恋愛を人間の烈情(パッション)として捉えている。特に、女性側からの視点に趣を置くその描き方は、ある種の狂気にも似た苦しく深淵な人間の愛憎劇として提示してくれる。さらに其処に、ルーブル美術館を有するフランスの歴史観が加われば、この愛憎劇はたちまち壮大な歴史の大河を駆け抜けた、女の一生の物語へと変貌してしまう。
この映画はまさに、フランス恋愛映画の王道そのものである。1930年代、インドシナ半島にある仏領インドシナ(現在のベトナム、ラオス、カンボジアに相当する地域)に、フランス人・エリアーヌ(カトリーヌ・ドヌーブ)は、父と養女カミーユ(リン・ダン・ファン)と共にゴム園を経営していた。東アジアに、共産主義の疾風と、反植民地支配運動が顕れ始めた頃、支配者であるフランス人は、相変わらず遠き地インドシナでフランス風の暮らしに固執しているのだった。祖国を知らずして育ったエリアーヌは、ゴム園を守り、それを家族の為に残してゆく事こそが、自身の存在理由であると言い聞かせている。しかし、フランス海軍将校ジャン・バチスト(ヴァンサン・ペレーズ)との出逢いが彼女の女としての人生を目覚めさせる。この映画は、晩年のエリアーヌが、カミーユの息子に自身の運命的な人生の葛藤を口述する形を取っている。1992年ゴールデングローブ賞外国語映画賞受賞。世界遺産に登録されたと言う、ベトナム・ハロン湾の美しい風景が、物語に素晴らしい奥ゆきを見せている。