Moiré Index by Carsten Nicolai ©2010 Gestalten, Berlin
〈自己生成のプロセス〉を体感し、現実を拡張するためのツール
2010年の後半ほど【raster-noton】、すなわちアルヴァ・ノト、もといカールステン・ニコライの動きが、(特に日本において)活発なことはあっただろうか。ブリクサ・バーゲルトとのanbbの作品リリースを皮切りに、恵比寿のG/Pギャラリーで開催された、TOKYO SHOPにおけるアーカイブ的作品展示、そして、アルヴァ・ノト名義のほか、池田亮司とのユニット、cycloのライヴも披露したレーベルのショーケースを各地で行い、締め括りには、急遽、彼のDJを堪能できるアフター・パーティーなどというオマケのようで超スペシャルなイヴェントも決行された。
そんな中、会場で見かけた方も多いであろうカールステンの新刊書籍『Moire Index』が発売された。2009年に出版された『Grid Index』に続く作品集であり、18.5×23センチ、312ページにも及ぶハードカバー仕様だ。部屋にあると障害物、下手をすれば凶器にもなりかねないこの豪華本だが、ページを開いた瞬間からうなりが干渉し合い、どこまでも続くモアレを延々と感知することになる(なんとその数580点! )。サイン、コサイン、タンジェント、放物線に楕円……さらにランダムにパターン化されたノイズなど、数学的に解析され、瞬間的に表現されたさまざまなパターンの線とドットが、無限の組み合わせにより、普遍のずれ美を見せてくれる。
〈グリッド〉から〈モアレ〉へ ──グリッチ&リズムを基調とするサウンドから、徐々にアンビエント&ドローンな傾向を強めるカールステンだが、この著作からもはっきりとその一貫した美学が読み取れる。なお、付属のCD-ROMには、掲載モアレのデジタルファイル1400点が収録され、新たなオーバーレイを作る透明シートも付いている。そう、カールステンがいつも言う〈自己生成のプロセス〉を体感し、現実を拡張するためのツールが、我々の手元に与えられたというわけだ。さあ、どうする?