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ファクトリー的な匂いを放つ4ADの期待の新人、ツイン・シャドウ

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2011/01/12   18:02
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文/久保憲司

 

ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ 〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、4ADからの期待のニュー・カマー、ツイン・シャドウのデビュー・アルバム『Forget』について。ドラムスのジョナサン・ピアースも絶賛する80sサウンドは、どこかファクトリーの作品にも似たドライでクールなカッコ良さがあって――。

 

みなさま、明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いします。総体的に考えると去年のベスト・アルバムはやはりアーケイド・ファイアの『The Suburbs』でしょうか。「CROSSBEAT」の年間ベストにアーケイド・ファイアやカニエ・ウェストを入れるのはちょっとベタすぎるのかなと思って外してしまいましたが、僕はそう思います。

『The Suburbs』、いいアルバムですよね。洋楽が好きじゃない人に「このアルバムいいよ」って渡しても「なんじゃこれ」って言われず、ちゃんと聴いてもらえそうな作品です。また郊外のいろいろな出来事を集めた短編集のような、何度聴いても飽きないアルバムでもあります。郊外の家の窓から変わりゆく景色をただ単に眺めているだけのようなんですが、実は奥深いところで静かなる政治が鳴っている感じもいいですよね。いまの僕たちの気持ちを見事に捉えたアルバムだと思います。僕が「CROSSBEAT」で選んだバンドもそういうバンドが多いですね。この若者たちの静かなる思いが大きな渦になるのか、それとも消えていくのか、その答えが今年くらいに出そうな気がしています。そんななかでも特に僕がいいなと思ったのがツイン・シャドウ、いいアーティストを連発している4ADからの期待の新人です。

ドラムスのジョニーが「初めてツイン・シャドウを聴いた時、思わず立ち止まってしまったんだ。僕にとって、これは完璧なポップだと思った。それは、彼の曲がカッコ良くてキャッチーっていうだけでなく、真の誠実さがそこにあるからなんだ」と言っていますが、僕は昔、モリッシーと808ステイトがいっしょにやるという噂だけで実現しなかったプロジェクトの、その音源が20年以上も経って蘇ったのかと、思いました。

ツイン・シャドウは80sと言われていますが、『Forget』はベタな80sじゃなく、ファクトリーの音なんですよね。4ADじゃなく、ファクトリーな感じがカッコ良いなと思いました。しかもファクトリーといっても、ニュー・オーダーじゃなく、セクション25やストックホルム・モンスターズのドライでクールな感じ。それをジョニーが言うところの〈完璧なポップ〉にまとめ上げています。ツイン・シャドウがセクション25やストックホルム・モンスターズを好きなのかどうかわかりませんが、PVを観ると、当時のファクトリーのあのチープなヴィデオを思い出すんですよね。“Slow”なんて、ツイン・シャドウが彼の納屋でドラムを叩いているだけ。でも、それが彼の曲と相まってカッコ良いんですよね。

どこかケネス・アンガー風というのも良いんです。とってもゲイ・チックなんですけど。ツイン・シャドウ、ドミニカ共和国出身でなかなかのキャラクターなんですけど、やっぱゲイなんですかね。黒髪をモリッシーみたくリーゼントにしているんですが、日本ではちょっとこのルックスはキツいですかね、売れてほしいんですけど。インドの王族のご子息という触れ込みだったモノクローム・セットのビドみたいに、ドミニカ共和国の王族の血を受け継ぐとかいう設定が必要だった気もするんですけど。でも“Castles In The Snow”のPVなんか83年のサンパウロのパンクスをドキュメントしたアルベルト・ヒエコの「Punks」からの映像を使っていて、むちゃくちゃ良いんですよね。こちらもゲイ・チックですけど。でも、ツイン・シャドウの曲と見事にマッチしているんですよね。凄く趣味が良いです。王族の血を受け継ぐなんて言わなくっても、ツイン・シャドウは2011年に売れるでしょ。いや、もう売れているか。

 

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