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庄司紗矢香『J.S.バッハ&レーガー:無伴奏ヴァイオリン作品集』

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o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2011/03/03   16:34
更新
2011/03/03   16:40
ソース
intoxicate vol.90 (2011年2月20日発行)
テキスト
text : 山野雄大

強く美しい衝撃──俊英がどうしても録りたかった〈時空を超える共鳴〉

強く美しい衝撃……と書いて誇張はないだろう。凄まじいばかりの精緻な音楽が、熱くも自然な呼吸とともに、聴き手の感覚をつかんで揺り動かす。たしかに、深く。

瑞々しいデビューを飾った少女時代から世界的なキャリアを重ね、着実に我が道をゆくヴァイオリニスト、庄司紗矢香。昨年秋には(4年ぶりの!)新録音として鬼才カシオーリと共演したベートーヴェンのソナタ集を【ユニバーサル】から出したばかりだが──彼女がこの繊細な対話に即興性も富んだ素晴らしいデュオを録る半年ばかり前、別件でお会いしたときに「なんでも録音していいと言われたら何を弾きますか?」と尋ねたら、彼女は間髪入れずに「バッハとレーガーをあわせたアルバムをぜひ作ってみたい」と応えたものだ。レーガーといえば、20世紀初頭にかけて重厚堅固な秀作を多数残した作曲家。その作品にはしばしばバッハへの憧憬が深々と響く。2世紀離れたふたりの独創がアルバムの中で共鳴しあうというアイディア、ぜひ! と期待高まりつつ、名手とはいえ若い奏者にとっては渋めで実現しにくい企画ではあった。──時を経て〈ラ・フォル・ジュルネ〉音楽祭をきっかけに縁ができた【ミラーレ・レーベル】がアルバムを実現させたことは、皆にとって幸せなこと。余韻美しい録音にも恵まれて、聴き手を深い旅へと連れ出してくれる素晴らしい2枚組になった。

収録作は、バッハ〈無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ〉から第1番全曲と第2番の〈パルティータ〉(人気の《シャコンヌ》を含む)、そしてレーガーの〈無伴奏ヴァイオリンのための前奏曲とフーガ〉抜粋。途方もない超絶技巧を揺るぎない技術でクリアしながら、その正確を経てのみ達する自在で豊かな次元へ。見事な集中力と凛としたコントロールが瑞々しい美音を完璧に磨く庄司の音楽は、バッハの奥ふかい明晰とレーガーの渋くも濃く鋭い輝きとを、聴き手の中へ鮮明に拡げてゆく。拍手。