
リマのバリオで花開いたペルー風ワルツの決定盤
地学や犯罪学、生物学の分野だけでなく文化にも、ホットスポットと呼ぶにふさわしい場所がある。ペルーのリマに点在するバリオ(下層民居住区)は、まさしく稀少な混血音楽の温床のひとつだ。19世紀後半、南米大陸きっての都市に、欧州で大衆人気を博したワルツやポルカがもたらされて花開き、新種の果実を宿す。殊にギター奏法に独特のアクセントをきらめかせるバルス・ペルアーノ(ペルー風ワルツ)は、土地っ子の魂、粋と誇りを体現する歌として定着。1930年代以降、録音物や電波を通し内外へ広まり、国民的音楽にまでのぼりつめた。
ワルツは元来3拍子だが、ペルーのバルスは4分の3と8分の6拍子のクロスリズム。とあるJ-POP系の兄ちゃんがTVトーク番組で「8分の6って何だよ!? 面倒臭ぇから4分の3にしろや〜」と冗談混じりに発言しとったが、とんでもない暴論である。絶妙のゆらぎをもたらすリズムを、断じて約分などしちゃあいかんのだ!
20世紀初頭の気風を残す内々の宴を、初めて録音に収めた2作品。渋く甘く、時に切なく自慢の喉を披露するのは、引退したプロもしくは無名に近い各バリオの長老19名。採りあげる楽曲も、バリオごとに慈しまれてきた伝統ナンバーが中心という。絶品のギター、アフロペルーを象徴する打楽器カホンが柔らかな音色でサポート。カスタネットと囃し声が交錯する。音楽ビジネスに呑み込まれなかったぶん、同時代を生きたアルゼンチン・タンゴやリオのサンバとは違う、のどかで幸せな継承スタイル、古き佳きものへの穏やかな愛着をひしと感じる。
意外だったのが、バルス曲に挟まれた軽妙ポルカ・ナンバーの多さ。つい、民俗音楽の視点では看過されがちなのだが。当然のことながら長い時を経て淘汰され、価値あるものだけが世紀を越えて歌い継がれる。守り抜かれた貴重な精華を、素晴らしいブックレットの顔写真を眺めつ堪能しよう。いが〜ん、ず〜っと浸っていたい!