ワゴン・クライストを再起動したルーク・ヴァイバートの歩みを振り返る
〈奇才〉と呼ばれる人の9割は〈普通に才能のある人〉だったりするものだが、ルーク・ヴァイバートの歩みと仕事ぶりを見ていたら、ただでさえ〈奇才〉と呼ばれる人の多い音楽シーンにおいて、彼を奇才と呼ばずして何と呼ぶべきかとじんわり思うのだ。
彼の特徴と言えば、まずはその無宿ぶり。複数のレーベルから作品を出すケースが多いクラブ・ミュージック界隈ではあるが……20年近くも高い知名度と人気を誇りつつ、かといって自身の城を立ち上げることもなく、常に複数のレーベルから他名義も併用して精力的なリリースを続けるあたりは尋常じゃない。しかし彼がただの奇人ではなく奇才たる所以は、その契約レーベルがライジング・ハイ、ワープ、リフレックス、ニンジャ・チューン、プラネット・ミュー、モ・ワックス……と一流どころばかりだという点にも表れているのではないだろうか。また、大物オヤジ転がしが上手な点も重要だ。他業種との共同作業が多くないテクノ界において、ペダル・スティールの巨匠であるBJ・コールや、電子音楽の元祖たるペリー&キングスレーのジャン・ジャック・ペリーとアルバム単位でコラボしているのだ。
もちろん、いろいろな名義を使い分けて披露される音楽性も重要だ。テクノ~ブレイクビーツを中心に統一性はないものの、無自覚(?)なオシャレ感というか、小綺麗なサウンドには耳触りの良さという共通項がある。ドラムンベースに取り組んだプラグ(エイフェックス・ツインに与えた影響も大)、ディスコ路線のケラー・ディストリクトのように方向性を限定した名義もあるのだが、ワゴン・クライストとしての出世作『Throbbing Pouch』(95年)ではテクノ全盛時にレイドバックしたジャジーなブレイクビーツで異彩を放ち、ルーク名義での最新作『We Hear You』(2009年)は変なテクノ~ブレイクビーツ調ながら本気のジャズ・ブレイクを混入させたり、音楽における自由っぷりにもブレがない。
そして、ワゴン・クライスト名義では7年ぶりのニュー・アルバムとなる今回の『Toomorrow』でも、洗練されたオシャレ感に彼らしさを留めながらも、ソウル/ファンク的要素を大量投入するなどサウンドの奔放さは旧作に輪をかけて凄いことになっている。やりたい放題やってもスタイリッシュな彼は〈裏エイフェックス〉的だとも言えるが、小手先のインパクトやエキセントリシティーに流れず、スタイル不問ながらもハイセンスに聴かせてしまうのはルークならでは。間口は広いが奥は深く、真の意味で狂っていておもしろいのだ!
▼ルーク・ヴァイバートのリミックス/プロデュース曲を収めた近作を一部紹介。
左から、ジェイミー・リデルの2006年作『Multiply Editions』(Warp)、DMXクルーの2010年作『Wave Funk』(Rephlex)