さて、こちらのPEOPLE TREEを読んでいただければわかるように、青天井だったニュー・メタルの時代も、音楽シーン全体の雰囲気の変化によって2002年頃には下火になっていきます。無敵の勢いを誇ったリンプですら方向性を見失ったほどですから、ブームが去るのはあっという間でした。その後にリンキン・パークがリンプ以上のブレイクを果たせたのも、ニュー・メタル感を減退させてオーセンティックな方向に転じた結果の産物だと言えましょう。
では、ニュー・メタルの遺伝子は消え去ってしまったのか……そんなことはないですよね。例えば、キャッシュ・マネーと契約して話題になったケヴィン・ルドルフは、サウンドの傾向からしてモロにリンプ・チルドレンのひとりでしょう。トラヴィス・バーカーがプロデュース活動やソロ作で展開してきたヒップホップ勢との積極的なクロスオーヴァーは、いわゆるニュー・メタルとは異なるものの、リンプやメソッズ・オブ・メイヘムらが培ってきた土台の上に成り立っているといっても過言ではないでしょう。
それをラッパーとしての立場から推進している代表格と言えばマナフェストが挙げられるでしょうし、リル・ウェインやリック・ロスら多くのラッパーが衒いなくロックに取り組んだりする姿勢は、リンプらの蒔いた種がヒップホップ・サイドにも着実に根付いていることを示すもののはず。さらにはブーム沈滞後の2005年に結成された純ニュー・メタル・バンドのハリウッド・アンデッドが最新作(ケヴィン・ルドルフも参加)で全米4位を奪取するなど、復権の兆しも見えてきているというわけです。
一方、復権どころじゃなくニュー・メタルの種子が確実に定着しているのは日本でしょう。主に〈ミクスチャー〉と呼ばれることが多いのは上で述べた通りですが、宇頭巻やBACK DROP BOMBといった先駆者の活躍と並行して、Dragon Ashもリンプと同じタイミングで日本中を席巻しましたね。それ以降ではヒップホップ・アクトとの共闘も頻繁なRIZEや、ONE OK ROCK、あるいはUVERworldといった面々が広い意味でのニュー・メタルからの影響下にあるサウンドを鳴らしています。リンプの復活はちょうどいいタイミングなのかもしれませんよ!!
▼関連盤を紹介。
左から、リンキン・パークの2010年作『A Thousand Suns』(Warner Bros.)、ケヴィン・ルドルフの2010年作『To The Sky』(Cash Money/Universal)、トラヴィス・バーカーの2011年作『Give The Drummer Some』(Interscope)、マナフェストの2010年作『The Chase』(Bec)、ハリウッド・アンデッドの2011年作『American Tragedy』(Octone/A&M)、Dragon Ashの2010年作『MIXTURE』(ビクター)、RIZEの2010年作『EXPERIENCE』(ユニバーサル)