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第27回――甘い歌声に誘われて……

再発先生奇談

連載
ロック! 年の差なんて
公開
2011/07/14   14:24
更新
2011/07/14   16:07
ソース
bounce 331号(2011年4月25日発行)
テキスト
文/内山田百聞


続々とリイシューされる幻の名盤や秘宝CDの数々──それらが織り成す迷宮世界をご案内しよう!



初の紙ジャケ&SHM-CD仕様でリリースされたジョニ・ミッチェルの諸作を購入してきた私は、書斎のソファーに腰掛けてゆっくりと拝聴することにした。まずは71年作『Blue』(Reprise/ワーナー)だ。簡素だが緻密に練り上げられた演奏とジョニの美しく澄んだ歌唱は、高音質で聴くとより切々と胸に染みる。しばし浸った後、届いていた郵便物に目を通したのだが、そこに一通の奇妙な手紙が交じっていた。

「少しもご存じのない女から、突然お手紙を差し上げます罪をお許しください。私は先生の熱烈なファンです。先生のことなら何でも存じています。たとえば先日、USパワー・ポップ史に残るマテリアル・イシューの91年作『International Pop Overthrow』(Polygram/Hip-O)を買われましたね。20周年記念盤ということでボートラが8曲も追加、しかもキャッチーな曲ばかりと喜んでおられました。

また、ガレージ・サイケの代表格とも言えるリッターの67年作『Distortions』(Warick/Arf! Arf!/HAYABUSA LANDINGS)を聴かれた時も大変興奮なさっていましたよね。随所で凶暴なギターが唸っていて、私には少々やかましかったですけれど、先生はノリノリでございました」——何だこの手紙は!? もはやジョニの歌声も耳に届かず、額には冷汗が伝わってきた。

「それにしても初CD化されたパーカー・ブラザーズの81年作『The Parker Brothers』(Crown Vetch/Creole Stream)は、スティーリー・ダンの影響が窺える白人メロウ・グルーヴの佳品で素敵でしたわ。〈自主制作らしい野暮ったさもあるが、それもまた個性だ〉と先生は呟かれていましたよね。あら、ひょっとして、いまあたりを見回していらっしゃる? 私はとても近くにいますのよ。そう、一度だけヒヤッとしたことがありますの。

レインボーの79年作『Down To Earth』(Polydor/ユニバーサル)が、アウトテイクを追加した2枚組デラックス・エディションでリイシューされましたよね。グラハム・ボネットが好きなので、ついつい“Since You Been Gone”のサビを鼻歌でなぞってしまったのですが、先生は大音量で聴いていたので気付かなかったのよ。……ねえ先生、私がどこにいるかわかります? そう、貴方が座っているソファーのなかよ」——私は戦慄したまま微動だにできなかった。そんな、まさか。しかし、手紙の続きを読んで、私はさらに驚き、唖然とした。

「……という感じの小説を昔読んだのですが、題名が思い出せずにお手紙しました。先生ならご存知かと思いまして」。