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PHOEBE SNOW

連載
NEW OPUSコラム
公開
2011/08/15   00:00
ソース
bounce 335号 (2011年8月25日発行)
テキスト
文/北爪啓之


哀しくも美しい歌に抱かれて



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フィービ・スノウには——名前からの連想もあるが——どこか冬枯れた、凛としたなかにも哀切を孕んだ人、という印象がある。ジャズやブルース、フォークやゴスペルなど多様なジャンルを越境した音楽スタイルと、情感豊かに歌い上げる独特のヴォーカル。その奥に垣間見える一抹の哀切。

74年にデビューした彼女は、“Poetry Man”でいきなりの全米TOP5ヒットを飛ばし、グラミーの新人賞にもノミネートされるなど華々しいスタートを切る。が、その後は権利問題によるレーベルの移籍、重い脳障害を抱えた娘の出産、離婚など、順風満帆とは言い難い道のりが待っていた。娘の看病を優先したためレーベルからは十分なサポートが得られず、彼女自身も大病を患ったことなどもあり、80年代以降は寡作状態が続く。愛娘を2007年に亡くし、その悲しみを振り切るように音楽活動を再開した矢先、2010年に脳出血で倒れ、そして今年4月に60歳でこの世を去った。

今回、長らく廃盤だったCBS期のアルバム4枚が紙ジャケ&リマスター化された。いずれも大ヒットとはいかなかったものの、USルーツ音楽を都会的なメロウネスで包み込んだサウンドと、エモーショナルな歌唱が見事に溶け合った傑作揃いで、内省的ではあっても決して暗くはない。スノウは波乱の人生を懸命に生き、そして希望を捨てずに歌ったのだ。ゆえに彼女への最大の追悼は、遺された作品に耳を傾け、全身で浸ることに違いない。

▼このたびリイシューされたフィービ・スノウの作品を紹介。
左から、76年作『Second Childhood』、76年作『It Looks Like Snow』、77年作『Never Letting Go』、78年作『Against The Grain』(CBS/ソニー)