ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、ギタリストの脱退後、初となる新作『Portamento』を完成させたドラムスについて。彼らは、80年代のUKインディー・バンドの音を、いまのポップスとして通用するようにしてくれる――。
ドラムスの新作『Portamento』を聴いて、やっぱ、ドラムスはセンスがいいなと思う。デビュー・アルバム『The Drums』は彼らの大好きなスウェーデンのバンド、タフ・アライアンスやレジェンズなどを、完全に自分たちの音楽にしていたな。その手法は、ドラムスの音楽を聴いていると〈なるほど〉と思うんだけど、自分でやれるかというと、やれないよね。
リード曲の“Money”なんて、スミスみたいですごくかっこ良いんだけど、スミスじゃないんだよね。間違いなくドラムスなのである。あー、こんなバンドやりたい。
『The Drums』はオレンジ・ジュースの匂いがしたけど、『Portamento』はウェイクなどのファクトリーのバンドの匂いがしている。だから、前作よりも暗い感じがするんだけど、暗いと思わせないところがドラムスのセンスの良さなんだよね。
“Money”の歌詞もすごく暗い感じ。自殺するよ、って歌なのかな。でも、聴いているとそんな感じがしないんだよね。もう一度ゼロから始めるよ、みたいな勇気が湧いてくる。そういうのがドラムスの魅力だと思う。
『Portamento』の作業も長いこといっしょにやってきたアンディ(ギタリストのアダム・ケスラー)が辞めて、そのすぐ後に、落ち込んでいても仕方がないと始めたそうだし。
唯一残念なのは、『The Drums』で聴けた、ニュー・オーダーのようなベースがなくなっていること。あれはベースを買うお金がなくって、ギターでベースっぽい太い音を作って、それでも足りないからキーボードで同じフレーズを弾いて、太い音にしていたそうです。PVを観たら、今回はちゃんとベースを弾いているので、ベースを買えて良かったなと思っています。音も必要以上にベースの弦らしい音がしていて、それが80年代のインディーみたいでいいです。
ドラムスは僕が大好きだった、80年代のUKのインディー――その頃は1,000枚くらいしか売れなかったインディー・バンドの音をいまのポップスとして通用するようにしてくれていて、嬉しくなるんですよね。
本当に大好きなバンドです。MGMTもガールズも大好きですが、僕はドラムスをいちばん応援したくなります。