スクエアプッシャーが狙うのは原点回帰なのか、それとも……
スクエアプッシャー(SQP)ことトム・ジェンキンソンのサウンド変化は、激動の極みである。まず、彼の名声を最初に高めたのは、リフレックスからの初リリースとなったEP『Squarepusher Plays...』とファースト・アルバム『Feed Me Weird Things』(共に96年)に収録された“Squarepusher Theme”だった。そのフュージョン的なバカテク・ベースがドラムンベース方面でバカ受けし、ドラムンベースと呼ぶには複雑で、ドリルンベースと呼ぶには〈音楽的〉すぎるプログラミングの妙もあって、『Hard Normal Daddy』(97年)あたりまでは日本でも〈ドラムンベース界の異才〉という評価が一般的だったと思われる。
しかし、そんなミュージシャンシップの業か、『Music Is Rotted One Note』(98年)ではいきなりオール生演奏のディープなジャズへ変貌する。次作『Budakhan Mindphone』(98年)まで続くこのスタイルは、デビュー時の評価に対しての反動と暴走であろう。この頃の日本ではブームが落ち着いたこともあって、SQPをドラムンベースとみなす認識は薄れていく。
しかしそうなるとパンク魂に火が点くのか、『Go Plastic』(2001年)、『Ultravisitor』(2004年)ではファンの求めるSQP像も客観的に意識し、過去最高にカオティックかつ狂躁的なドリルンベースが炸裂。結果として、特に後者は最高傑作との呼び声も高い一枚となった。そんな客観性をさらに突き進め、〈SQPってフュージョンに通じるライトなポップ感が人気だったんじゃね?〉と分析したのか、続く『Hello Everything』(2006年)では風通しの良いポップ感と抑制の効いたドラムンベースという進化した原点回帰を見せて安定路線へ……と思わせながら、次の『Just A Souvenir』(2008年)では〈夢で見たバンドの再現〉などというどうかしてるコンセプトでロック〜ポップス的なアプローチ(本人がヴォーカル!)に取り組み、ふたたびファンを戸惑わせることに。ついにはベース演奏のみのアルバム『Solo Electric Bass 1』(2009年)を発表し、プレイヤーとしての毒抜きを完了させてやっとマトモになるかと思いきや……バンドを結成して制作した『Shobaleader One: D'Demonstrator』(2010年)は歌モノ路線(ヴォーカルはヴォコーダーで変調)を披露し、われわれは『Just A Souvenir』のテーマが白昼夢ではなくマジだったことを知るのだった。
そして、今回登場する新作『Ufabulum』では、久々のエレクトロニック・サウンドにドラムンベース、アシッドなどをぶち込んだ、ありそうでなかった〈みんなの聴きたいSQP〉と言える直球勝負路線にまたまた回帰している。これだけ振り幅が大きく、ブレることにブレがない彼の変節は、音楽的素養から生まれる自由な発想、そしてそれを実際に形にできるプレイヤビリティーという優れた資質から生まれてきたものだ。これだけ違いすぎるサウンドを別名義に派生させることなく、SQPの名で引き受け続けるトム・ジェンキンソンは常に真剣であり、だからこそ彼はおもしろい存在であり続けているのだろう。