オージェイズから連綿と受け継がれていったソウルは思わぬ形で伝承を絶たれてしまった。しかしながら……今回は初のソロ作を発表したエディ・リヴァートと、その息子たちが組んだグループ=リヴァートの初作にまつわる秘話を絡めて紹介します!
オージェイズのエディ・リヴァートが69歳(現在70歳)にして初のソロ・アルバム『I Still Have It』を発表した。オージェイズを思わせる軽やかなミディアムから重厚なスロウまでを熱くディープに歌い上げたソウルフルな一枚。半世紀以上の芸歴を誇りながらソロ作が初めてとは意外だが、常にグループを俺色に染め上げてきたエディだけに、あえてソロになる必要がなかったのかもしれない。
当初は5人組でインペリアルやベルなどに録音を残し、ギャンブル&ハフ主宰のフィラデルフィア・インターナショナルに入社する頃に3人組となって以降、そのフォーメーションを崩していないオージェイズ。彼らが“Back Stabbers”(72年)を筆頭に数々のヒットを飛ばしてフィリー・ソウルの代表グループとなったことは有名だが、そのディープでファンキーなスタイルが地元オハイオ州(キャントン)で育まれたことも見逃せない。特にエディの野性的で濃厚なヴォーカル。これがいつしかオハイオ出身のソウル・アクトの伝統芸となり、オージェイズの弟分的なトゥルースなどにも引き継がれていく。
同時にそんな彼らの背中を見て育ったのがエディの息子であるジェラルドとショーンだ。別項でも触れているように、このリヴァート兄弟は親友のマーク・ゴードンを迎えてオージェイズよろしく3人組のグループを組み、〈リヴァート〉として活動を開始。リードのジェラルドが聴かせるディープで濃密な歌はまさに親父譲りで、〈オージェイズの息子たち〉という印象を強く与えた。オージェイズに倣ってオハイオ(クリーヴランド)を拠点としながらフィラデルフィアを第二の故郷とし、両都市を行き来して作品を制作/録音しているのも興味深い。さらに彼ら(特にジェラルド)はプロデューサーとしても頭角を現し、リヴァート(Levert)を逆さ読みしたトレヴェル(Trevel)プロダクションからルード・ボーイズやメン・アット・ラージといった地元の新人を送り出すが、そんな面倒見の良さも親父たちにそっくりだった。
リヴァートはデビュー時こそ父エディの威光を借りたものの、アトランティックにメジャー進出してヒットが出はじめると、次第に父との立場が逆転していく。89年にはオージェイズの楽曲プロデュースも手掛け、ラップ入りの“Have You Had Your Love Today”で親父たちを現行シーンに放り込むという痛快なこともやってのけた。一方のオージェイズもそんな息子たちに刺激を受けてニュー・ジャック・スウィングなどに果敢に挑戦。こうして互いを刺激し合い、90年代以降は、その血筋を確かめ合うように親子共演も繰り広げた。ジェラルドは父とのデュエット曲や共演盤を吹き込み、ショーンも唯一のソロ作『The Other Side』(95年)に兄や父を招いて共演。さらにリヴァート休止後も親子3人でリヴァーツを名乗り、サントラ『Down In The Delta』(98年)で“Where Would I Be”という曲を披露するなど、リヴァート家の絆はますます強固になっていったのだ。
コンスタントにアルバムを発表していたジェラルドが歌声/風貌ともにエディ化していく様子も微笑ましかった。しかし、2006年11月ジェラルドが40歳の若さで急逝。その後、2008年3月、兄を追うように39歳のショーンも他界。息子たちに先立たれたエディの悲しみやいかに……と周囲が心配するなか、しかしエディは愛息が継いだリヴァート・ブランドをいま一度自身のもとに奪回し、精力的に活動を続けている。ジョニー・ギルの最近作に収録された“Long, Long Time”ではLSGのLとしてジェラルドの代役を務め、ギルやキース・スウェットと濃厚な歌合戦を展開。また、エリック・ベネイとはオージェイズ風のフィリー・ダンサー“Paid”でデュエットするなど、いま思えば今回のソロ作を予感させるような動きも見せていた。息子たちがいないなら俺が歌う……とでも言わんばかりに。リヴァート家の濃厚なBloodline(血筋)は、エディがいる限り消えはしないのだ。
▼ジェラルド・リヴァートの関連作を紹介。
左から、遺作となった2007年作『In My Songs』(Atlantic)、未発表曲を収めたベスト盤『The Best Of Gerald Levert』(Rhino)、LSGとしての未発表曲が収められたキース・スウェットの2011年作『Till The Morning』(eOne)、ショーン・リヴァートも参加したLSGの2003年作『LSG2』(Elektra)
▼エディ・リヴァートの参加した近作を紹介。
左から、ジョニー・ギルの2011年作『Still Winning』(Notifi)、エリック・ベネイの2010年作『Lost In Time』(Reprise)、プレストン・グラスの2010年作『Colors Of Life』(Expansion)