グリズリー・ベアの新作と、世界に散らばる2012年のアメリカーナ
これまでも伝統は守られてきた。しかし、そのためには〈守る側〉がより強くなる必要があったと思う。いまやUSインディー界隈を牽引する街に成長したブルックリン発の4人組、グリズリー・ベア。彼らは世界的に高評価を得た前作『Veckatimest』から約3年ぶりとなる新作に『Shields』(盾)と名付けた。
ある意味ライヴァルと言える同郷のアニマル・コレクティヴも最新作『Centipede Hz』を発表したばかりだが、刺激的な想像力を駆使して〈攻撃は最大の防御なり〉を地でいったのが上述のアニコレのアルバムだとすれば、〈防御は最大の攻撃なり〉という真逆の方法論を成立してみせたのが、グリズリーの今作だと言えるだろう。
約8か月の充電期間を経て行われた録音では、ダニエル・ロッセンが書いたメロディーをエドワード・ドロストが歌うなど、ソングライター/メンバー間でかつてない濃密なコラボレーションが行われたという。そう、本作はとにかく濃いのだ。まるで4人がひとつに溶け合い、巨大な〈盾〉と化したかのようにサウンドは重く、厚い。フォークを源流とした伝統的な感覚と豊潤なハーモニーを、モダンな音響処理によって再生し、アメリカの原風景を亡霊の如く現代に蘇らせてきた彼らだが、今回はその音像が、獰猛なまでの生々しさで聴き手に迫ってくる。
そうした今様のアメリカーナ解釈──古き良き風景のなかに新しい表現を掘り当てようとする人々、例えばフリート・フォクシーズやボン・イヴェールらが次々と現れるなかで、グリズリーはさらなる深化に成功したのだ。
ダニエルによれば、冒頭の“Sleeping Ute”は、コロラド州の〈眠れる戦士〉という名の山脈に伝わる神話を題材にしたという。アメリカに眠る古の戦士たちの魂が、時空を越えて乗り移ったかのような威厳と美しさ。そして、その先人たちが引き継いできたものを現代で守り抜くための、強靱な意志。それらを音に変えたものが、本作なのかもしれない。
▼関連盤を紹介
左から、フリート・フォクシーズの2011年作『Helplessness Blues』(Sub Pop)、ボン・イヴェールの2011年作『Bon Iver』(Jagjaguwar)
▼グリズリー・ベアの作品を紹介。
左から、2005年作『Horn Of Plenty』(Kanine)、2006年作『Yellow House』(Warp)、2009年作『Veckatimest』(Warp)