ベスト盤『Kyon30〜なんてったって30年!〜』に続いて届けられたのは、〈シャンソン〉をテーマにした4年ぶりのオリジナル・アルバム。シャンソンとはすなわち、愛と人生の歌だ。つまり今回はドラマ的な要素が多くあり、語り口の巧みさで聴かせる歌がたくさん入っているということか……と思ったら、実際にその通りであった。ってことは、“KyonKyonはフツー”(89年作『KOIZUMI IN THE HOUSE』に収録)や“小泉今日子はブギウギブギ”(2008年作『Nice Middle』に収録)のような、彼女以外には歌いようのない特殊なコイズミ歌謡が満載なのか……という予想はちょっと外れていて、彼女と同世代のナイスミドルな女性たちに向けた、エスプリの効いた人生讃歌で占められている。
新作には、今回も数多くの個性的な音楽家が顔を揃えることとなった。前述のベスト盤においては選曲に関わった著名人30名がKYON2に対する熱い思いを競い合っていたけれど、ここに集った面々もそういったものをお持ちのようで。例えば、珠玉のミディアム・バラード“100%”を提供したさかいゆう。KYON2の伸びやかな歌声を引き出そうと思案しながら作ったと思われるメロディーには、彼の愛情がいっぱい散りばめられているような気がする。聴いたこちらが思わずそうしてしまったように、彼もまたこの素晴らしい曲の出来栄えに触れて、ガッツポーズをとっていたに違いない──。
小泉今日子というシンガーは、優れた自己プロデュース能力の持ち主だということをご存知だろうか。それにプラスして、共演するアーティストやクリエイターから並々ならぬ創作熱を引き出してしまうお人であることも。相手を本気にさせてしまう彼女の魅力はこれまで発表されてきたいくつもの名曲においてしっかりと語られているが、なんてったって今回はKYON2の人生劇場だもの。みんなの本気度の高さだって、かなりのものだ。
菊地成孔が手掛けたエレガントなフレンチ・ポップ“大人の唄/Une chanson pour les grands”、SOIL &“PIMP” SESSIONSが奏でる軽快なスウィング・チューン“Sweet & Spicy”、ユメオチのギタリストやmilk名義のソロ・プロジェクトでも活動する若きコンポーザー・梅林太郎によるフォーキーなバラード“小雨の記”など、レトロなムードもそこここに、渋い旨みがあってハートウォーミングなナンバーがてんこ盛りの今作。これがまた、現在の等身大の彼女を演出するのにピッタリだったりする。さらに、Curly Giraffeが書き下ろしたボサノヴァ・ナンバー“プライベート”、川辺ヒロシと上田禎の編曲による、いとうせいこうと藤原ヒロシのユニット・SUBLIMINAL CALM“カントリー・リビング”のカヴァー、“渚のはいから人魚”のフレーズを用いた小西康陽作の“面白おかしく生きてきたけれど”ほか多彩な楽曲群のなかでも、ひときわ存在感を放っているのは二階堂和美が作った2曲だろう。叙情的なピアノ・バラード“ごめんね”もさることながら、ニカさん節が大炸裂の“わたしのゆく道”が素晴らしく、ここでのKYON2のコブシ回しは罪作りな愛らしさがある。
現在のKYON2は、こんなに活き活きとしていて、光ってるんだ。そんな事実を豪華な音楽家たちによる楽曲が熱っぽく語ってくれる『Koizumi Chansonnier』。最高に良い。
▼『Koizumi Chansonnier』参加アーティストの作品を一部紹介。
左から、さかいゆうの2012年作『How's it going?』(ARIOLA JAPAN)、菊池成孔率いるDATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDENの2012年作『SECOND REPORT FROM IRON MOUNTAIN USA』(Impulse!)、SOIL &“PIMP” SESSIONSの2011年作『MAGNETIC SOIL』(ビクター)、milkの2012年作『greeting for the sleeping seeds』(RALLYE)、二階堂和美の2011年作『にじみ』(KAKUBARHYTHM/Pヴァイン)、Curly Giraffeの2012年作『FLEHMEN』(スピードスター)、小西康陽のソロ・プロジェクト・PIZZICATO ONEの2011年作『11のとても悲しい歌』(ユニバーサル)